ただ君と、甘い幻に浸る
□こんなにも君を想う
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「薫殿、優がどこにいるか知らないでござるか?」
朝、いくら探しても見つからず買い物にでも行ったのかと思った。
「優なら朝早くどこかに…そういえば、これ剣心に渡してって頼まれたの。」
だが薫殿から受け取った手紙には綺麗な字でこう書いてあった。
『きらい。』
「三行半ならぬ三文字半だな。」
「左之助!いつここに?」
「今し方。」
―きらい。きらい。きらい。きらい。きら…――
せ、拙者は…何かしたのでござるか?
「剣心?けんしーん。駄目だこりゃ、魂がどっか行っちまってるぜ。」
「あちゃー…優に何かしたのかしら。」
「風呂覗いたとか?」
がんっ!!(言葉の石がぶつかる音でござる。)
「寝込みおそったとか。」
がんっ!!!
「もしくは……迫ったら思いっきり拒絶されたとかだったりしてな!はっはっは!」
がんっ!ごんっ!
「しくしくしく…」
「剣心、何があったか知らないけど…」
「拙者は何も…っしてないでござるー!!」
「じゃあ何で優が消えるんでぃ。」
「優……」
わからない…
拙者が何かしてしまったのだろうか…
「剣心…もー何じーっとしてるのよ!」
「薫殿…」
「本当に嫌いだったら手紙なんて残さないでしょ?わざわざ手紙を書いて私に預けたってことは、貴方にきてほしいからじゃない!」
本当に、嫌いだったら…
残さない…
「優は待ってるのよきっと、剣心が見つけてくれるのを。」
待っていてくれるだろうか、愛想を尽かして消えてしまわないだろうか…
拙者の元へ、また…
戻ってきてくれるだろうか?
「いいからぐだぐだ悩んでないでさっさと探してきなさーい!!」
「おろ?!っは、はいでござるーっ!」
待っていてほしい。
必ず、見つけてみせるから。
「はぁっ…は、っはぁ…くそ…っ!」
あれから一刻…
思い当たる場所は手当たり次第当たったが、どこにもいない。
燕殿や妙殿もわからない、と言っていた。
優…
拙者が行くまで…どうか…
「剣さん?」
「っ恵、殿?」
「どうしたの、すごい汗…」
再び走ろうとしたら、声をかけられた。
「いや…拙者は…」
「あら、優は?一緒じゃ…」
「…何でも、ないでござるよ。」
「剣さん、何かあったんでしょ?」
こ、これは逃げられないのでは?
恵殿の顔がっ…
怖いでござる…
「いや、そのーでござるな…」
「優、でしょう?」
「な、何故優だと?」
「あらぁ、剣さんがこんなに必死になるなんて…あの子か優でしょ?」
おろー…
恵殿には何でもわかってしまうのでござるな…
「実は……――」
恵殿に説明すると、いきなり笑って大丈夫よ、と言った。
「しかし…」
「優は本当に剣さんが好きなのね。」
「え?」
「手紙で剣さんに…『きらい。』なんて、可愛いじゃない。」
くすくすと笑って拙者の目線にあわせる恵殿。
「好き、よりも想いを伝えられてるわよ?大丈夫、優は…」
「あれ?恵さんだ!」
何かを伝えようとした恵殿を遮り、ずっと探していた…声がきこえた。
「わーい!恵さーん!」
「優、どうしたの?」
「実は……って、け、剣心?!気づかなかった…」
「優…」
「あー…えっと、手紙、読んだ?」
苦笑いで問う優に、小さく頷く。
「どこまで読んだ?」
「へ?ど、どこまで…?」
言っている意味がわからない。
懐に直していた手紙を取り出し、開く。
ぱらぱらと開いていくと端っこに小さく書いてあった。
『なんてね☆』
「だから言ったでしょ?優はただ剣さんをからかってただけなのよって。」
「いや言ってないでござる。」
「あら、おほほほ。」
「剣心が…最近構ってくれなくなったから、ちょっと意地悪したかったんだ。」
そういえば…
最近は色々あってあまり優と一緒にいれなかった。
「ごめんね、嫌いなんて書いて。」
あぁもう、拙者がいけないのに、そんな顔してほしくない…
「帰ろう、優。」
「うん!」
「恵殿も、一緒に昼ご飯でもどうでござるか?」
「ありがとう、お邪魔するわ。」
しっかり繋いだ手を、もう…離さない。
「そういえば、優、どこにいたのでござるか?」
「甘い物が食べたくて、色んなお店回ってたけど?」
……あれだけ町の中を探したのに?!
み、見つけられなかったなんて…!
「今度は、一緒にいこうね!」
「あぁ、一緒に。」
end