ただ君と、甘い幻に浸る

□君を呼ぶその時は
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「ねぇ剣心?」

「?」

「何、悩んでんの?」


最近気になることがある。


「いや、大したことでは…」
「優ー!」


「あ、薫ちゃんだ、じゃあね!」

「あ…あぁ。」


左之や弥彦、薫殿に恵殿。

皆、そうなのだが…


「あれ?剣心、優見なかったか?」

「左之、さっき薫殿に呼ばれて居間に行った。」

「そうか。」



今更といえば今更。
だがしかし拙者だけ違うのは…

少し悔しい気もする。


「あら剣さん、優知らない?」

「おろ、恵殿。さっき薫殿に…」

あぁやはり…
拙者だけのようでござるな。


「剣さん?」

「…優…………殿は、薫殿に呼ばれたのでござるよ。」






呼び捨てにしていないのは。

そう、最近、皆が呼び捨てにしているのを見て、拙者も…!

と意気込んでみたのだが…

「優殿」と呼ぶことに慣れてしまっているということもあるけれど…

少しばかり恥ずかしい。


そんな考えを巡らせていると優殿の笑い声が聞こえてきた。

「左之ーっ!私のおにぎりあげるから洗濯物ほしてー!」

「優てめぇ食い物で釣りやがって!」

「あははっ!食べてるしっ!」

「腹減ってんだよ!」


楽しそうでござるなー…
って違う!優殿の恋人は拙者でござる!

いかん、このままでは左之中心になってしまう…!


何とかして拙者も「優殿」呼びから呼び捨てにせねばならんっ!


「剣心、優がさ」
「…弥彦、お主いつから優と呼び始めたのでござるか?」

「んぁ?最初っからだけど?」

最初…
最初…


『では、優殿。』


最初からもう駄目だ。
呼び捨てなんてする癖はないから困った…


「ところで優が」
「そうか…さりげなく呼べばきっと…」

「おーい……聞いてねぇなこりゃ。」

『ご飯でござるよ、優。』

『け…剣心、いきなりどうしたの?』

『ん?優、と呼ぶのは不服でござるか?』

『そうじゃなくて…その…なんか恥ずかしい…』


なーんてことになったりするかもしれないでござるよーっ!

「何やってんの剣心。」

「っお"ろ"ー?!」

「全く、人が呼んでるのに無視して。」

「い、痛いでござる…」


ゴン!という音と一緒に優殿がため息をつく。

ちなみにゴン!は背中を蹴られて柱に頭をぶつけた音でござる。

はっ?!今こそ呼ぶ時!!

「優ど」
「あーぁ、たんこぶできてる。って私のせいか、よしよし。」


…頭撫でられてるー!
嬉しいでござるが今はそれどころではっ…!
しかも殿を結局つけてる…!

次こそ…


「優」
「優ー洗濯物終わったぜ。」

「わーい!ありがとうー!」


左之後で殴る。


「お…悪寒が…っ」


よし次こそっ…


「あ、剣心。」

「は、はい!」

「なんで剣心って「優殿」って呼ぶの?」

「へ?」

い、いきなりすぎる…

「いや、皆呼び捨てだし、剣心も呼び捨てでいいよ?」


あ…拙者は…
皆と一緒は…嫌でござる。


「それに剣心は…わっ、何?いきなり抱きついて…」

「拙者は…名前を呼ぶとき、愛しさを込めて呼んでいるのでござる…皆には無理でござろう?だから…」

だから皆とは違うのでござるよ。

「優、…優。」

「っ…は、恥ずかしいからやっぱやだ!」

「もう受け付けないでござる、今更…優の名を呼んではいけないなどと…酷なことを言ってはいけないでござるよ、優…?」

ぎゅうっと抱きしめて耳元で囁けば湯気がでそうなくらい真っ赤になった優。


「剣心のばーか…」

「優にならなんと言われても、平気でござるよ?」

「ほほぅ。男女、変態、チビ、のぞっ…ん、む…」


全く…こう言うときだけ饒舌になるんだから…見ていて楽しい。

「っ、は……それ以上言うと…口を塞いで喋れなくするでござる。」

「もうしてるじゃ…っん、んーっ…」

「優…」

「な、に?」


「好き…でござる…」



さて、左之を殴りにいこう。
優とじゃれていたお返しを…させてもらうでござるよ。




「完璧にとばっちりじゃねぇか!!」




end

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