ただ君と、甘い幻に浸る
□過去よりも今を選ぶ、
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今日は、私が初めて来た日のことでも話そうかな。
まぁぶっちゃけ暇だし。
半年前、大学の合宿からの帰り、疲れていた私は点滅している信号を渡っていた。
そしたら信号無視して突っ込んできた車に轢かれてばーん。
体は痛いし意識は朦朧とするしあの男殺す…!!
なんて思って、次に目を開けたら、なんとも美形なお兄さんの顔が目の前に。
轢いた男か?!
とも思ったんだけど、着物に刀。
なんて…
ん?
ってなったわけ。
「気がついたようでござるな。」
「ご、ざる…?」
「拙者が通りかかったらおぬしが倒れていて慌てて駆け寄ったのでござる、気を失っているだけだったので安心したでござるよ。」
「せ、っしゃ?」
「怪我はないようでござるが…珍しい服を着ているでござるな。海の向こうから来たのでござるか?」
「珍しい、服?」
サークルの関係でスーツを着ていた私は、剣心から見れば異国人に見えたんだと思う。
いやいや列記とした日本人だよ。
ちなみに鞄もあって中身は無事でした。
「ていうか、………銃刀法違反〜?!何で車に轢かれて無傷なのかも気になるけど何?!何で着物?!」
「お、おろっ?!廃刀令でござるか?拙者元は」
「つかここどこ?!何で東京じゃないの?!」
「ここは東京でござるが…」
「嘘?!人いないしビルもないし車も電車も!!!てか今何時?!」
「落ち着くでござるよ〜!!」
ぎゃーぎゃー喚く私ろ何とか宥めた剣心。
そして私はふと携帯を取り出した。
「圏外…、はぁ…あ、助けてくれてありがとう、えっと…」
「拙者は緋村剣心、流浪人でござる。」
「私は佐伯優、で、とりあえず…」
「??」
「今って…もちろん平成、だよね?」
「あはは、今は明治十一年でござろう?」
「っ…うっそぉぉぉ!!!」
「おろ?!」
「なんで…」
トリップしたなんて信じられなくて、その場に蹲ってたっけ。
剣心がおろおろ言いながら慌ててた。
「どうやら訳有りの様でござるな。家はどこでござるか?」
「マンション…ていうかない。」
「それなら拙者が居候してるところにくるといいでござる。」
「い、居候?」
で、この辺りでなんか見覚えあるなーって思い出したの。
緋村剣心。
頬に十字傷。
明治十一年。
赤い髪。
冷静に整頓したら漸く思い出した。
昔流行ったるろうに剣心って番組。
私は小さくてあまり覚えてないけど、再放送やってた。
暇つぶしに見てただけだったから思い出すのに時間かかったけど…
「優殿?」
「るろうに、剣心…」
「へ?」
「思い出した…確か維新志士で、人斬り抜刀斎…」
「拙者を……知っているで、ござったか。」
「あ、ごめん聞こえてた?」
ということは今から行くのは神谷道場!
皆がいるんだ!とテンションもあがって、剣心に連れて行ってくださいお願いしますーって笑顔で言ったの覚えてる。
「しかし、不思議な服でござるな。靴も…歩きにくくはござらんか?」
「これ?別にヒール高くないし…きつくないよ?」
「??」
「気にしない。」
「重そうでござるな。拙者が」
「重そうで重くないから大丈夫だよ。」
それから神谷道場について、薫ちゃんに説明してもらって左之助や弥彦、それに恵さんに次々紹介を受けて、私も居候することになった。
あそこで剣心が来てくれてよかったなぁ。
で、私の回想基出会いは終わらせて、久しぶりに携帯をいじってみる。
換えの電池を入れて電源をつけてみると、久しぶりの機械になんとなく現代っ子に戻った気になった。
「あー…ビバ現代っ子。」
「優殿、それは?」
「おや剣心。これは遠くにいる相手とでも話せたり手紙を送れる機械だよ。」
「それはすごいでござるな!」
あ、目が…輝いとる…無理無理、電波ないから。
「触ってみる?」
「い、いいのでござるか?」
「どうせ使えないしね。」
見られて困るものも特に入ってないし、剣心には多分理解できないと思うし。
「お。おろろっ…鳴きだしたでござる…!」
「あ、ごめんアラームだ。」
「あらぁむ?」
「時間になったら知らせてくれるんだよ。」
「便利でござるな。」
便利、そうか…明治と平成じゃ時代が違いすぎるんだ。
当たり前になっているものは全て、剣心たちにすれば便利で、凄くて…
「優殿?」
「久しぶりに自分の服、着てみようかな。」
「やはり、帰りたい、でござるか?」
「ん、私両親いないし、親戚もいない。一人暮らしだし、親しい友人もいなかった…だから帰りたい、とは思わないけど…」
ただ、向こうの暮らしは何もかも当たり前すぎて…こっちに来てから嫌というほど思い知らされた。
「たまには、当たり前に使うんじゃなくて、ちゃんと有り難みをもって使わなきゃって。」
誰かが開発したから携帯があって、誰かが発明したからエアコンがある。
そんなのに頼るんじゃなくて…
「そうか、それは良いことでござるな。」
「うん、あ!確か…旅館で着てたジーパンとシャツがあったっけ…」
「?」
「剣心、服交換しよ!!!」
「おろ?!」
私の服を着せて、剣心の服を私が着るの!
そういって私は剣心の手を引っ張り部屋に向かった。