ただ君と、甘い幻に浸る

□赤い糸
1ページ/1ページ



「それはやばいわ!」

「でしょ?!」

何やら賑やかな居間。
どうやら薫殿と優が楽しそうに話している。

「素敵ね、その話。」

「小さい時は学校で流行ってたなぁ…」

「何の話でござるか?」

「あ、剣心。」

部屋に入って向かい合う位置に座って問えば、二人はくすくすと笑った。

「今ね、薫ちゃんと運命の赤い糸の話してたんだ。」

「運命の、赤い糸?」

「そ!赤い糸でつながっている二人は、結ばれるっていう話。」

優が嬉しそうに小指を薫殿とくっつけて言う。

ふむ…運命の赤い糸…

「好きな人がいたら、繋がってるかなぁなんて考えたり…おまじないしたり…」

「もちろん、優と繋がっているのは剣心よ?」

「か、薫ちゃん!」

「あら、だってあんなに険しい顔してるんだもん、安心させてあげなきゃ。」

あわあわと慌てながら顔を赤くする優に、微笑みながら自分の小指を見る。

「二人共、私は買い物に行くから、後お願いね!」

「へ?あ、わかった!行ってらっしゃい。」

「気をつけて、薫殿。」

「ありがと、行ってきます。」

薫殿が買い物に出掛けて、優と他愛ない話をする。

「優。」

「なぁに?」

「その、小…を…」

「こ?」

ふと、机に置かれた優の手が目に入って、さっきの話を思い出す。

「剣心、どうし……あ…」

左手を取って指を絡める、小指だけを。

ほんのり頬を染めた優が可愛くて、その唇に触れたくて、身を乗り出した。

「……きっと、私はこっちへ来る前から、貴方と赤い糸で繋がっていたんだね…」

小さく触れて、ゆっくり離れると、優が呟く。
その表情は、とても綺麗で思わず魅とれるほど…

「偶然なんかじゃなくて、剣心と出逢うことは、必然だったんだ…」

「優…」

「私、幸せだよ。」

きゅっと小指を絡めるだけじゃなく、優しく…手を繋いだ。

幾度となく闘い続けた拙者の手は、決して綺麗ではない。
優が触れたら、汚れてしまう…
そう思うこともある、だけどその度…

「剣心は、この手で色々なものを守り通してきたんだね。」

そう、優が言ってくれた。

「私も…剣心を守るからね!」

「優、ありがとう…」

触れる唇は少し苦くて、そこから溢れる気持ち。
言葉で伝えきれない想いは、全身全霊で…

「愛している…」

表情で、声で、抱きしめる力で…








きっとずっと昔から、赤い糸で繋がっていた。
全てが、偶然を装った必然。




end

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ