Short

□成人式
1ページ/3ページ







『さっむ‥‥』






はぁーっと指先に白い息を吹きかけた

じんわり暖かくて、でもすぐに芯から冷えてくる

カランカランと鳴る足を止めて仰いだ空は今にも雪が降りそうな真白に染まってて






『はぁー』






そのまま吐いた息は空に溶けた

今の私はひどく‥‥憂鬱である










今日は一般的には待ちに待った成人の日である

つい先日二十歳を迎えた私はレンタルの赤い振り袖を着て花の髪飾りを付け慣れない化粧まで施してある


さっきから目がかゆい‥‥が、擦れない

もどかしくてそれが何よりウザったかったりする、クソ


下駄も歩きにくいったらないし足の装備が足袋だけなのが致命的だ

足先の感覚がすでにない

歩いて会場に行かなきゃならない身にもなれアホが






『あー‥‥前に進まない』






着物だからこの通り、一歩が小さい

首元のファーだけがぬくぬくあったかいのでうずめて寒さを凌いでる

いや凌げるわけないじゃん、バカか極寒だ






『文句ばっかだなぁ‥‥』






せっかくの成人式なのに、と思う

せっかく昔懐かしの中学メンバーに会うのに、とも思う


‥‥でもたった一人、会いたくない奴が居るのだ






『獄寺、隼人‥‥』






卒業から5年も経つのかと思うと

私もつくづく未練たらしい女だ






中3の時、私には好きな人が居た






『獄寺ー、おはよ!』

「‥‥‥‥!」

『ちょっと挨拶くらいしよーよ』

『‥‥よう』

『まぁそれで許しますか』






別に特別仲がよかったわけじゃない

けど他の女子と比べたら私はよく獄寺の側にいた

たぶん京子と仲が良くて、そういった繋がりからだ






側に居るに連れ、不良に見えてた獄寺の印象はだんだん良くなって

気付けば必ず目で追っていた


今思うと乙女だな私‥‥


まぁそんなこんなで、中学卒業式の後だったかな

勇気を振り絞って告白をしたわけですよ。‥‥でも










「悪い‥‥俺イタリアに帰るから」

『え‥‥』










頭ん中真っ白

桜のピンク色も雪のように見えて

それからかな‥‥桜と雪が苦手になりました。どんまい


結局その後のことは全く覚えてないし

だってイタリアだよ?

しかも何より、‥‥知らなかった

イタリアに行くなんて


それってつまり、‥‥脈なしってことだよねぇ



へこんだわさすがに

別に自惚れてたわけじゃないけどそこそこ行けるって思ってたんだもん

泣ける。てか泣いたよ当たり前じゃん!!






で、もちろんその卒業式以来会ってません






それ以降恋なんてものもしなくなりました

枯れてる?存じております






『ん?‥‥あ』






その時頭ん中で何かが引っかかった

つかそーいや今更思い出した






『あの時、お見送り来て欲しいって言われたんだっけ‥‥?』






でもさ、行けるわけないじゃん

ふられてさよならする男のお見送りとか

傷口抉られてるにもほどがある






『でもよくよく思えば‥‥獄寺イタリアじゃね?』






そーだよ、あの人今イタリアに居るんじゃんか!!

つーことはだよ、別に今日今この時‥‥憂鬱になる必要は何一つないじゃん!!

‥‥うわ、憂鬱損だ萎えたもう帰りたい






そんな私の目の前に成人式を行う会場がそびえ立っていましたとさ














‥‥そしてその入り口に足を踏み入れようとした、その時だった






「おす」

『‥‥‥‥!』

「挨拶くらいしろよ」

『‥‥よう』

「まぁそれで許してやるか」






デジャヴ‥‥っ!!?






いつか昔にその逆パターンのくだりやったぞおい

相手は中3ん時の獄寺隼人

そして今目の前に居るのは‥‥










「‥‥久しぶりだな」

『‥‥ども』










二十歳になった獄寺隼人でした






.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ