その他

□帰る場所
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「ただいまー」

鍵を開けて家の中に入っても返事はない。

「あれ?誰もいないのかなー?」

なんて独り言を呟いたところで
今日はおばあちゃんの病院の日だということ
それと、学校から出る前に同居人が

『今日シロとの用事あるから
 帰るの遅くなっかもだからよろしく』

と言っていたのを思い出した。
家の中は薄暗く、寂しさを感じる。
独りなのは馴れていたはずなのに・・・。
なぜこんな気持ちになってしまうのだろうか。
自室に入って荷物をおくと、

「あぁ、ジローのせいで忘れちゃってたんだ。」

そう思った。
気を紛らすためにも明日までの課題をする。
まぁ、全て分かる訳じゃないので参考書を片手に解くのだが。




「夕飯の用意しなきゃ……」

課題も終わり、気がつくと窓から見える空は赤く染まっていた。
何時に帰るかは言われてないけど夕飯は食べるだろうし
帰ってきて何もないと困っちゃうよね。
・・・ジロー自分で作れないし。

「ん、簡単にカレーでいいか。」

日持ちするし、と考えて台所へ向かう。

「よし完成!」

味見もしたがそれなりに美味しかった。
でも、あまり食欲がしない。

(ジロー帰るの待ってよ。二人で食べた方が楽しいし。)

「早く帰ってこないかなー」

呟いた言葉は、誰にも届かないまま空に溶けていった。




−−−−−−−−−−−



「ただいまー。」

思っていたより遅くなってしまった。
シロが余計なことばっか気にするから・・・。
グチグチ呟きながら、ふと返事のないことに違和感を感じる。
もうアイツは寝てしまったのだろうか?
いやいや、まだ8時ちょい過ぎだしそれはない。

「あ、ったく・・・電気ついてるし。」

居間の襖から明かりが漏れている。
テレビでもみてんのか?

「花、ただいま。」

声を掛けながら襖を開けると
少女はテーブルの横の壁に寄りかかりながら膝を抱えて寝息をたてていた。

(結局、寝てんじゃねーか)

苦笑いしながらテーブルを見ると、
手付かずのカレーライスがラップをかぶっていた。
・・・もしかして俺のこと待ってたのか?

「は、花さーん?」

遠慮がちに肩を揺すって夢の世界から帰ってくるよう促す。

「ん……っ」

揺すりが効いたのか、眉を潜めて睫毛を震わせ
うっすらと目を開けはじめる。

「お目覚めですか、姫?」
「あ、ジロー・・・夕飯、食べてきた?」

一言目がそれってどうなのだろうか。
でも、それが彼女らしいと、つい笑ってしまった。

「え?なに笑って・・ってゆーか今何時?」
「8時だけど」
「嘘っ?!ジローお腹空いたよね?!」

まだ寝ぼけてる彼女が一気に覚醒して、カレーの盛ってある皿を抱えて台所に走った。

「ちょっ、落ち着け!」

今にも転びそうで危なっかしい・・・いや、出遅れた自分も悪いのだが。
膝立ちだった状態から完全に立ち上がり彼女のいる台所に向かう。

「あ、手伝ってくれるの?」
「まぁ自分が食べるものだしな」
「・・・ふーん、じゃあ片付けも頼んじゃおうかな!」
「ちょっ、ずりぃ!」

たまにはいいでしょー、なんて笑う花に苦笑い。
でもそれに嫌悪感なんて微塵もない。
むしろ込み上げる幸せのような何かをどこにやろうか戸惑っている始末。

「あ、お帰り、ジロー」

思い出したみたいに笑顔でそう言う花。
その笑顔で、その言葉で
『あぁ、やっぱりここが俺の帰る場所なんだなぁ』
そう感じる。



―――――お帰りなさい
―――ただいま

君が笑ってくれるなら、そこが僕らの帰る場所




END
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