φ脳
□Just for you.
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私の大好きな人たち。
そんな彼らに私の日頃の感謝を伝えるには、やっぱり手作りのチョコに想いを込めるのが一番だと思うの。
けど、誰よりもその想いを伝えたいやつは…。
だから、私は――…
「やっほー、みんな!ハッピーバレンタイン!」
「わっチョコのお菓子がたくさん!」
「気合い入れたからね〜」
「相変わらず美味そうだな」
「へへ、ありがとギャモン君!」
「トリュフにガトーショコラにケーキにクッキー、マフィンまで……選り取りみどりだね」
「軸川先輩も気にせずどんっどん食べてくださいね!」
「ねぇノノハ、もう食べてもいい?」
「もっちろん!アナもみんなも、召し上がれ」
いつもより色めき立つ学園に違和感を覚えながら天才テラスに行くと、聞こえたのはいつものメンバーの明るい会話。
そして、ここでやっと学園のそこらに溢れ返る甘ったるい匂いと空気の理由に気付く。
(あぁ……そういや今日は2月14日か)
思えば今朝、登校途中にノノハが後輩やら部活仲間から色々貰ってたな。
クラスでも学園全体でも仲の良いやつが多いノノハは、それだけ人望も信頼も厚いのだ。
それに、
…好意だって。
「あ、カイト」
「ん?あ、ほんとだ」
「何ボーッっとしてんだよ!」
「カイト君、すごく美味しいから君も食べなよ」
「いや、でもカイトは……」
テラス手前で考え込んでいたら俺に気付いたみんなが声を掛ける。
それに応えるように足を進めると、視界に入ったのは中央にあるローテーブルいっぱいのノノハスイーツ。
「うげぇっ!!ノノハスイーツ大量生産?!!」
「え?」
「……あーぁ」
つい条件反射で顔を青くしながら体を仰け反らせると、軸川先輩が驚いた表情をし、逆にキュービックは大きなため息を吐く。
後ろではギャモンもアナも呆れかえった顔をしている。
「あ、そっか。カイト君にはトラウマがあるんだったね」
「……えぇ、まあ」
「あまりに美味しかったから忘れちゃってたよ」
「もう、軸川先輩ったら、そんなに褒められると照れますよー!」
「………。」
なんだか酷くおもしろくない。
俺だけがノノハスイーツの味を知らなくて、みんなの輪に入れない。
けど、それよりもノノハが俺以外の男にへらへらしていることが気に入らなかった。
……いや、何様だよ。
ノノハだって自分の作ったものを美味しく
食べてくれる奴の方がいいに決まってる。
「ん?どうしたの、カイト」
「え、いや…」
つい苦い顔をしてしまった俺を、肝心なときには鈍いくせに妙にやたらと鋭いノノハが覗き込んでくる。
突然お互いの顔が近づいたことに思わず赤面するが、ノノハは気付かない。
それからまた暫し見つめられていると、ぱっと思いついた様子で声をあげる。
「あっ、そっか!ちょっと待っててカイト!」
「…へ?」
返事を聞かずにパタパタと小走りするノノハに呆然とし、とりあえず動かないでいると手に何かを持って戻ってきた。
「はいっ、カイトにはこれ」
「…なんだ?」
「美味しそうなの買ってきたよ!心の方はラッピングに込めてみましたー!」
「お、おう……サンキュ」
「どーいたしまして!どうせなら美味しいの食べて欲しいしねっ」
ノノハの気遣いが嬉しかったが、釈然としないのも事実。
あー、ほんっと情けないな、俺。
「売り物よりノノハスイーツの方がずっと美味しいのになァ」
「あはは、ギャモン君、お世辞でも嬉しいよ!」
「お世辞じゃねぇって」
ちくしょう、ギャ
モンのやつ!
チラッとこっちを振り返った奴は、羨ましいだろうと言わんとする表情で。
「俺だって食えるっつーの!!」
「えっ?カイト?!!」
半ばヤケになってローテーブルにあったチョコケーキをわしづかみしてガブリと食べた。
「わあっ、危ないよカイト何してんの!」
「へっ、別に平気だって!あ、うまい…んぐぅっ?!」
「あーもうっ!言わんこっちゃない!!」
どれだけ心の中で大丈夫だと思っても、やはり体は拒否してしまうらしい。
大きな衝撃を感じると同時に、意識が遠退いていく。
けど、そのチョコの味は色んな意味で忘れられないものになった。
END
→あとがき