φ脳

□ないしょのはなし
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だんだんと暑くなっていく今日この頃。
校内の部活は、これまで以上に生徒たちのやる気が激しい。
それというのも、県の新人大会が近いからだ。
朝登校するときも、夕方に帰るときも、体育館やらグラウンドからは部員たちの元気な声が響き渡っている。

まぁ、それは分かるんだ。
だがしかし、俺の隣に幼なじみのアイツがいない意味が解らない。
アイツ……ノノハは別にどの部活にも所属してないというのに、持ち前のお人好し精神からか、毎日のように様々な部活の助っ人をしているのだ。
それも、分刻みのスケジュールで。

「おいノノハ、また行くのか?」
「え?うん。女バスのコーチしてから男子の方も見て、その次は屋外の部活まわるよ」

それがどうしたの?と言わんばかりの態度で返され、逆にこっちが戸惑う。
いつもは頼りになる運動神経も記憶力も、今は恨みの対象だ。
部活の奴らだって、なんでコイツばっかに頼るんだよ…。
いや、まぁノノハが楽しいならいいのかもしんねぇけど。
助っ人と言っても大会には出場しない、要するにサポーターやコーチという立場だ。
でないと色々とやばいのだ。
部員ではない生徒が大会に出るなんて御法度だ
から。

「ま、無理はすんなよ」
「そんなのしないよ〜、じゃあ行ってくる、…」

止めたって聞かないのは知ってるから、せめてもの無理はするなとの忠告をする。
それもむなしく笑ってかわされたけど。
嘆息していたら、ノノハが通称・天才テラスから降りるための階段へ向かう途中でその身体をグラリと傾むかせた。

「ノノハ……!」
「わっ、きゃあ!!」
「うおっ?!!」

そのまま階段から落ちそうになるノノハに手を伸ばすも、ソファに座ったままの俺に届くはずもなく。
そこにちょうど現れたギャモンがしっかりとノノハを受け止める。
ホッとすると同時に、俺の胸の辺りがズキッと痛んだ。

「おいっ大丈夫か、ノノハ!!」
「あ、うん、平気…」

胸の痛みはとりあえず無視し、タタッとノノハたちに駆け寄りながら問うと、ギャモンの腕の中にいるノノハが俺を見上げて無事を知らせた。
怪我もしてないみたいだし、ここはひとまず安心だ。

「バァカ、ふらふらしやがって何が平気だよ。この前よりずっと軽くなってんじゃねーかぁ!」
「え?」
「…はぁあ?!」
「顔色も悪いみてーだし、
親切もほどほどにした方がいいぞ」
「むぅ……」

さらりとギャモンの口から出てきた言葉に唖然とする。
ちょっ、この前っていつのことだよ!
この前よりも軽い、ってことは、前にもノノハのことを抱えたことがあるってことだよな?!
つい叫んでしまったけれど、俺の声は誰にも汲み取ってもらえず、ギャモンとノノハは二人で話を進めていく。

「と、まぁ、ギャモン様の推測なだけだけどなァ?」
「……わかりました。部活のみんなに謝らなきゃ」
「アーホ、お前の体調が悪くなるくらいなら誰も咎めやしないっつーの。自分たちのせいで、とかは特にな」
「そっか……」
「あぁ、だから過剰な心配すんな」
「うん、ありがとうギャモン君」
「おいギャモ…」

まだ少しの不満を隠せず眉間にシワを寄せているノノハに言って聞かせるような、柔らかい声色で言うギャモン。
ノノハの肩に回したままの腕とは違う方の手でポンポンと頭をなでる様は、どこか慣れたような仕草だった。
馴れ馴れしい行動に文句を言おうとしたら、ふたりの背後から小さな頭がひょこりと出てきた。

「各部活への連絡なら、ボ
クが受け付けるよ?」
「あっキューちゃん!」
「だからノノハ、今はゆっくり休んでて?」
「…っ、ありがとう!」

キュービックの言葉に、ようやっと笑顔を見せたノノハ。
そんなノノハの表情に俺もキュービックもギャモンも安心を顕にして笑みを返す。

「辛いなら保健室行くか?」
「ううん、ソファでちょっと休んでから真っ直ぐ帰るよ!」
「そうか。」
「じゃ、保健室から毛布でも借りてくるぜ」
「あ、うん。色々ありがとうね、ギャモン君」
「おう」

ひょこひょことテラスにあるソファへと歩いていき、その上で小さく体を丸めたノノハを確認したギャモンが後ろ手を振りながら保健室に向かっていく。
呆然とその様子を見ていた俺は、ハッと我に返ってギャモンを追いかける。
足も長く歩幅の大きいギャモンはとっくに階段を半分くらいまで降りていて、小走りでやっと追い付いた。
そして隣に立ち、声を潜めてずっと聞きたかったことを問う。

「おい、ギャモン」
「あ?なんだよ」
「さっき言ってた『この前』っていつのことだよ!」
「はあ?」

訳がわからない、という表情をされた。
どっちかっつーと、お前のあの発言の方が俺にはわからないんだが。

「だからぁ、ノノハを支えたときに言ってただろ」
「ああ、アレか」
「どういうことだよ、変なこと言いやがったらキレるぞ?」
「お前にキレられたって怖くねーよ」

嫌ーな笑顔をして階段をスタッと降りるギャモンは、言外に俺には話す気など微塵もない、と言っているようでさっさと食堂から出て行ってしまった。

(なんだよ、畜生!)


END

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