カードが導く未来(過去編)

□TURN5
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伝えたいのは、お別れの言葉ではなく


感謝の気持ち



TURN5
「さよならの代わりに…」


―月坂家―


「桜、その本はこの段ボールの中ね」

『は〜い!』


不思議な声が聞こえた2日後、月坂家では引っ越しの準備が進められていた


桜は小さいからと楽をするのではなく、両親の荷造りを手伝っていた


しかし、遊戯とは未だに会っていなかった


父と母が気遣って遊戯の家に遊びに行っても良いと言っても、桜は行かなかった


さらに、遊戯が家に来ても部屋から出なかった


会いたい気持ちは山々だ


しかし、せっかくアメリカに行くことを決意したのに、遊戯に会ったらそれが揺らいでしまいそうだからである


桜の中で、その葛藤は毎日続いていた


『(遊戯……)』

「桜?どうしたの?」


母の声に、桜は我に返った


『あっ、ごめんなさい!この本を入れるんだよね?』

「ええ、お願いね」

『うん!』


桜は満面の笑みを浮かべ、準備の続きを始めた


しかし、母は桜の笑顔に隠れた娘の悲しみに気付いていた


「(遊戯くんが言っていた桜の無理な笑顔…どうして私は今まで気付かなかったのかしら…)」


一生懸命お手伝いをしている桜の姿を見ながら、母は考えていた


――――――――――
――――――


その夜、荷造りもほとんど終わり、残るは2日後の積み込みを待つだけとなった


桜は疲れてぐっすりと眠っていた


一方桜の父と母は、段ボールに囲まれたリビングで一息していた


「あなた、桜のことだけど…」

「ああ…このままではいけない」


コーヒーの入ったカップを机に置き、二人は下を向く


「桜は、今でも辛いことに代わりはないだろう…」

「これまで、遊戯くんが当たり前のように一緒にいてくれたんですもの…離れることなんて、想像も出来ないでしょう」

「もしも、私達がお互い離れて暮らすことになったら…」


今まで隣にいることが当たり前の愛しい人…


その愛しい人と離れてしまう…


想像しただけでも青ざめてしまう


「…………私達には無理だ」

「……ええ」


娘と遊戯のこれからの生活を自分達に当てはめ、改めて娘の気持ちを身を持って感じた月坂夫婦


「なんとか出来ないかしら…」

「悔しいが、私達では桜を元気付けることはできない」

「そんな!」


じゃあどうすればという母の言葉を遮り、父は続けた


「私に考えがある」

「考え?」

「―――――――――」


父の提案に母は嬉しそうな顔をするが、すぐに元の表情に戻ってしまう


「でも桜は…」

「きっと大丈夫だ。あの子が手伝ってくれれば…」


そして父は携帯電話を取り出し、どこかへと電話をかける


「これも、今まで親らしいことをしてあげなかったお詫びだ。なんとしても、成功させるよ。…あ、もしもし…」


電話の相手に、真剣に頼み事をする父


母は話している内容で、相手が分かったようだ


数分間の通話後、父は静かに電話を切った


「協力してもらえるのね」


「ああ。喜んで引き受けてもらえたよ」


感謝してもしきれないよという父の言葉に、母は何か考える素振りをする


「……とっておきのお礼が出来るわよ」

「ん?何だい?」


その言葉に母は優しく微笑み、側に置いてあったカバンの中から一つのファイルを取り出す


数ページめくり、ある箇所を指差して父に見せる


「なるほど」

「私達らしいでしょ?そして桜にとっても、喜ばしいことだと思うわ」

「あの子なら、きっと大切にしてくれるだろう。その方が私達も嬉しい」

「ええ」


その後も、月坂家のリビングの灯りは遅くまで点いていた
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