小説3
□選択肢
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「正一・・・大丈夫か?」
元の世界へと綱吉達が帰った直後、スパナは正一に尋ねた。主語が抜けている問いだが、正一にはすぐ何のことか察した。
戦いの場にいなかったスパナは白蘭がどうなったのかは憶測でしかわからない。けれど綱吉達が無事に帰還したということは、白蘭は倒されたということ。
ボンゴレの味方となった今だが、正一は心の何処かで白蘭を想っている。そことが気に掛かるのだ。
「え?何のこと?」
正一はスパナがどういう意味で質問してきたかわかっているにも関わらず、咄嗟に惚けた。他人のことを気に掛けないスパナが心配するなんて、よっぽどのことだ。そこまで表情に出てたのかと焦り、無理に笑った。
だが作り笑いなことくらいスパナにんだってわかる。ムッと顔を顰めると、正一は顔を元に戻しゆっくり口を開いた。
「ごめん、スパナ。心配してくれてるんだよね、白蘭さんのこと・・・」
白蘭と、名前を口に出すだけで胸を締め付けられた。裏切り裏切られ、決して仲が良いなんて言えない2人。そんな白蘭と正一だが楽しかった大学生活という時間が、切っても切れない縁という糸を紡ぎだしていた。
「後悔、してるのか?」
ボンゴレの味方となり、後悔をしていないと言えば大胆な嘘になる。例えこの道が自分で選んだ道だとしても。
そもそも白蘭と出合ったこと自体後悔すべきことなのかも知れない。白蘭と出会わなければチョイスでの重傷も、苦しい想いも、悲しい想いもせずに済んだのだから。
「後悔は、馬鹿な数したよ。でも、いつまでも悔やんでたって仕方ない」
自分に言い聞かせるように言った。白蘭のことを忘れられる日がくるかはわからないが、せめてボンゴレの為に何か出来るくらいに、新しい生き甲斐を見つけれるくらいに。
正一はこの話を切り上げようと顔を上げるが、途端に目に涙が溜まっている感覚がした。
「正一・・・目、潤んでる」
「うっ、潤んでない!」
泣いていることを知られたくない。目を服の袖で拭くが涙は出続けた。白蘭を忘れようとした途端に出た涙。まるで白蘭が自分のことを忘れさせないように、涙腺を操っているかのように。
正一の悲しんでいる顔など見たくないスパナは、無意識の内に正一を抱き締めていた。悲しみを解せるように、ゆっくりと、優しく。
「悲しいときは泣いてもいいんだよ、正一」
「っ、うん・・・」
好きだった。白蘭のことが心の底から好きだった。この先2度と会えることはないが、今も好きだ。それなのに自分は敵になることを選んだ。何が正しいか間違いかなんてわからない。白蘭の行動も、正一の選択も。
「これから、ちょっとずつでいいから何かしよう。ロボコンとか、機械系のこととか」
「うん・・・っ、うん・・・」
スパナなりの励ましに、正一は何度も頷いた。その日1日、正一はスパナの腕の中で涙を落とし続けた。
明日から、白蘭がいなくても笑えるように。
100923
今更ですが未来偏結末の白正を。正ちゃんはちょっとずつでいいので立ち直ってくれたら、と思います。