小説3

□嫌い裏側
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目が合ったとき、一瞬世界の時間が止まったような気がした。無意識に歩みを止め、白くなっている頭をどうにか使おうとする。だが何を言えばいいのかわからない。あの時以来、攘夷戦争以来の再会なのだから。



「まさか、またお前と生きて会えるなんてな」



先に口を開けたのは高杉だった、戦いの最中別れたきりで生死もわからなかった。だか指名手配犯にされているという噂を聞き付け江戸に着てみると、顔を目立たせぬよう藁帽子を深く被っている桂と運良く遭遇。桂も相当驚いていた。



「お前こそ、生きてたんだな」

「俺がそう簡単に死ぬかよ」



お互い死んだ前提で自分の人生を送ってきた。未練を断ち切るために、会いたいという気持ちを押し殺す為に。
高杉と桂は松陽の塾生だった頃から幼いながらにも想いを寄せ合っていた。だからこそ忘れたかった。戦いが終わったのか途中なのかわからない今、馴れ合ってなどいられない。



「ヅラぁ、お前変わってねぇな」

「ヅラじゃない、」

「桂。そうやってヅラを否定するとことかな」



随分久しぶりに見たというのに、桂は最後に見たときと然程変わっていなかった。真っ直ぐな姿勢、揺ぎ無い視線、腰まである綺麗な髪。変化があるといえば着物の質が落ちていることくらいだ。



「お前も変わっていない。いや、変わったか?」

「どっちだよ」



桂から見た高杉はかなり変化していた、左目に巻かれている包帯や、色気づいた女物の着物。そして何より変わったのは内面だ。一緒に志していた頃とは一変している。



「高杉、お前は変わった。悪い方にな。テロなんて起こしても無益だ」

「よく言うぜ。俺から言わせればまだ攘夷志士を続けているお前の方が無益だ」



無益。
思わず言い返されたその言葉に反論は出来なかった。実際必死に戦ったたところで天人は追い返せていないし、寧ろ侵食が進んでいるのが現状だ。高杉は黙り込んでいる桂にある提案をした。



「桂、俺と一緒に来ねぇか」



共にテロを起こし、幕府を潰す。桂とはかなりやり方が異なっているが、要約すればしていることは2人同じだ。なら一緒に行動した方が戦力になるし、何より傍にいれる言い訳が出来る。
だが桂がこの誘いを断ることに見当はついていた。俺はお前を求めているというただの主張みたいなものだ。



「・・・俺には仲間がいる。あいつらを裏切れない」



案の定桂は断った。だが桂の断った理由は、裏を返せば信頼出来る仲間がいなければ一緒に来たということだ。少しポジティブ過ぎる捕らえ方かも知れないが。
高杉は次の行動に移すことにした。手を組めないのなら他の方法で繋がるまでだ。



「なぁヅラぁ、あれから俺以外の奴とキス、したかァ?」



高杉は桂との間にある敢えて作られている距離から踏み出し、桂の方へと近付いた。桂の頬に手を滑らし、唇が触れるか触れないかの位置で返事を待つ。



「ばっ、こんな所で・・・!」

「誰もお前が男なんて気付きやしねぇ。答えろよ」



確かに細身な桂は女でも通用する。だがこんな道の中央で口付けなどすれば注目されるに決まっている。いきなりの展開に戸惑いながらも答えた。



「・・・してない」



桂がそう答えると高杉は一瞬安心したように笑い、顔を上げ唇を当てた。擦れ違う人の視線が刺さってくるようだった。桂は数秒経つと離そうとしたが、高杉は顔を斜めにし無理に舌を入れてきた。



「・・・んっ、ふ・・・」



声が漏れさらに人の視線が気になる。だが久しぶりにキスを交わせたことに、嬉しいと感じる自分に嫌悪感を抱いた。恥ずかしいがもっとしたいという思いがし自然と上回り、気付けば自分から舌を過敏に動かしていた。



「---おいヅラっ・・・お前、激しすぎ・・・」



必死に求めてくる桂に水を差すように高杉は唇を離した。いくらなんでも桂がここまでするとは思っていなかった。我に返った桂は顔を少し赤く染め、口に手を当てた。



「やっぱりお前、俺のことが好きなんだろ」

「好きじゃないっ。貴様なんて、嫌いだ・・・!」



桂は勢いでこの場から逃げ出した。嫌いだ、あいつなんて嫌いだ。
いきなり現れて心をかき乱すような奴など、大嫌いだ。



100916
高桂はシリアスな関係がいちばん好きだったりします。
それよりヅラや晋ちゃんが被ってるあの麦藁帽子的なの、何て言うんですかね?

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