小説3

□桂さんと蕎麦の話
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好きかと訊かれたら別にこれといって好きではないが、嫌いかと訊かれたら特に嫌いでもない。普通だ。
味は普通に美味しい。決して不味くはないが、絶品というわけではない。
だがそれでも食べるのは、自分に合ってると思ったから。未練ばかりの攘夷志士として生きている自分には、こういう質素なものが適しているから。



「なぁ、そんなに旨いか?」



ずっと食べているのだから質問されて当然だ。どう回答するか迷う。自分は美味しさを求めて食べているわけではないのだから。
腹を満たせればいい。少量の賃金で食べればいい。求めているのはこの2つ。美味かどうかは二の次。



だからといって断じて豪華な物が食べたくないわけではない。寧ろ叶うのなら今すぐにでもご馳走に飛びつきたい。今迄に幾千とご馳走を腹いっぱい食べれたらどれだけ幸せかと考えたか。
だが本能的にしたりしない。何故だかは自分でもわからない。



少し頭を巡って考えてみると、1つの答えに辿り着いた。奇麗事かも知れない。自分は贅沢な人間になって悦に浸りたくないのだ。
自分は攘夷志士として地道に頑張っていく。蕎麦も細々と地道に頑張っていく。これが運命というものなのだ。
別に他人に同情してもらいたいわけじゃない。別に食べてもらう人に絶品と思われなくてもいい。
こう言うと少し語弊があるかも知れないが、同じ境遇なのだ。



1口掬って食べる。今迄何も感じずに食べてきたが改めて味わうと、もしかするとこれは美味しいんじゃないか。という錯覚に陥る。だが普通は普通。何も変わりはしない。



「あぁ、旨い」



変わったのは、自分の感じ方くらいだ。



100826
あまり意味は無い変な話。
話しかけて来たのは勿論高杉さんです。

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