小説3

□獄寺くんの1日
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朝、獄寺隼人は時に轟音となる目覚まし時計で起こされる。自分で起きなければいけない環境なので、少しでも遅くなれば綱吉に迷惑掛けてしまう。それを防ぐ為に支度はなるべくスピーディーに。
歯を磨き、朝食を摂り、趣味のアクセサリーを身に付ける。着替えて家を出る頃には時計の針は7時50分を指していた。予定としては8時に綱吉を迎えに行く。だが途中、道路を外れたところに子猫がいることに気付いた。



「おっ、可愛ぇ・・・」



猫の方へ近付き、こちらへ来るよう喉を鳴らした。だが怯えているのか後ろへ下がる。
それならば、と思い鞄を漁り昼に食べようとしていたパンを千切って地面に置いた。



「ほら、食えよ。こんなもん食わせていいのかわかんねぇけど・・・」



次々に1口サイズに切り置いていく。すると猫は警戒しながらも獄寺の方へ寄り、パンを1口齧った。飲み込むと美味しかったのか、嬉しそうににゃーんと鳴き声を上げた。
瓜といい猫が好きな獄寺には堪らなく可愛く感じた。



「旨いか?何か飲み物欲しいよな・・・でもんなもん持ってねぇし・・・」



パンだけだと口がパサパサすることに気付き、獄寺は辺りを見回した。近くにコンビニでもあれば買って来てあげたい。すると有り難いことに、信号を渡った歩道側にはコンビニが一軒建っている。



「ちょっと待ってろ。すぐ戻って来る」



鞄は猫の近くに置いたまま、財布だけをポケットに突っ込みコンビニまで走った。少ない所持金で牛乳と紙皿を買い、猫の元へ戻る。猫はまだちゃんとその場にいてパンを食べている。



「ほら、牛乳だ。飲め」



猫は今度は懐いたように警戒心を見せずすぐに飲み始めた。まるで笑っているかのような猫を優しく撫でる。撫でていると気付いたのだが、猫は相当汚れており、やや痩せ気味だった。



「捨てられたのか?可哀想にな・・・」



薄汚れた首輪を着けている。捨て猫で間違いないだろう。一瞬飼ってあげたい気になったが、すぐに振り払う。自分がペットなど飼える筈もない。何も知識は無いし、家も猫が住めるようではない。
情が移ってしまわぬ内に学校へ行こうと立ち上がった。が、今の獄寺にそんな冷たいことは出来なかった。



「お前も来るか・・・?」

「・・・にゃーん」



聞こえていないとわかりながらも猫に尋ねた。すると猫はまるで「うん」と返事をするかのように鳴いた。獄寺は猫を鞄を入れ、窒息しないよう開けたまま歩き出した。



「あっ、やべ!10代目が・・・!」



毎朝8時丁度に迎えに行っているが、気付けば今はもう8時15分。どう走っても綱吉は山本と行っているだろうし、猫に怪我はさせたくない。仕方なくゆっくり歩くことにした。



「くそっ、右腕としたことが・・・!・・・でも、ま、いいよなぁ・・・?」



獄寺は普段あまり見せない表情で笑い掛けた。学校に着くまでの時間は、基本綱吉の家からだと20分掛かる。獄寺の家から綱吉の家に行くまでに既に10分掛かるのだから、完璧に遅刻だった。
学校の門が閉められるのは8時30分。乗り越えればいい話だが、それから猫をどうするのかが問題だ。考えながら学校までの道程を歩いた。



「---うわ、もうこんな時間かよ」



学校の門が見える頃には40分を裕に過ぎていた。だがあまり気にせず歩いていると、門の前で誰かが建っている姿が視界に入った。獄寺の裸眼視力は悪く遠くからは見えないが、誰かわかるのに時間はそう掛からなかった。



「おっ。雲雀じゃねぇか。また朝っぱらから遅刻してきた奴懲らしめてんのか?」



門に立っていたのは雲雀だった。雲雀は時々遅刻をした生徒、それも群れている人を懲らしめているときがある。今日は既にした後なのか、構えたトンファーを直そうとしている。



「言っておくけど、君も十分遅刻対象者だからね。わかってる?」

「わかってるわかってる。わかってるからさ、1つ頼まれてくれねぇか・・・?」



獄寺は一旦猫を雲雀に預けようと考えていた。猫を連れ込んだまま授業を受ける気など出ないし、何より窮屈だ。



「何?くだらないことやどうでもいいことはしないから」

「ちゃんとしたことだ。今日1日・・・授業中だけでもいいからさ、こいつ見てやってくれよ」



鞄から猫を出し、雲雀に見せた。雲雀は鳥を飼っていて、小動物が好きということを知った上での頼みだ。



「君さ・・・こんなの連れて来ていいと思ってるの?」

「思ってねぇけど、放っておけるわけねぇだろ?」



雲雀は突き放すように言いながらも猫を受け取った。獄寺が本気で頼み事をするなんて滅多なことだ。それに雲雀自身、ヒバードと同じく猫から可愛さを感じる。



「・・・応接室にいるから」

「おっ、サンキュー雲雀!適当に顔出すから」



獄寺は急いで教室へ行き、雲雀は猫を抱きかかえ応接室へと向かった。獄寺が教室へ着く頃には授業はとっくに始まっており静かな雰囲気だったが、構わず扉を開けた。



「10代目ぇっ!すみません、今日迎えに行けなくて・・・!」

「えっ!あ、獄寺くん、大丈夫だからとりあえず座って・・・!」



綱吉は慌てながら獄寺を座らそうと促す。他の生徒の視線が集って痛いのだ。獄寺は何度もお辞儀をしながら自分の席へと腰を降ろす。同時に自分へ視線を送っている物を睨みつけた。



「えー・・・、それではもう1度この問題から」



教師は獄寺に文句を言いたそうにしながらも授業を再会させた。
獄寺はここからは一気に暇になる。授業など受けなくてもテストで満取れるほどの知識は備わっているからだ。だが睡眠はしない。寝ている間に綱吉の身に何かがあれば危険だからだ。
一先ずノートを開け、新しいG文字を開発することにした。これがいちばん時間を潰せる手段だ。すると後ろから肩を叩かれた。後ろの席は山本。それに不良と騒がれている獄寺に容易く肩に触れる者など山本くらいしかいない。



「何の用だ」

「何で遅刻したんだ?ツナも心配してたぞ」



振り向くと山本は小声で質問した。山本の台詞から綱吉に心配を掛けてしまったことを悔やみながら曖昧に返した。



「ちょっと寄り道してたら遅れただけだ」

「そっか。お前がツナ絡みのことでドジるなんて珍しいな」



猫がそこまで可愛かったからだ、と口には出さず心の中で言いながら前を向いた。
少し経つと1時限目終了のチャイムが鳴った。獄寺はすぐに綱吉の元へ行き頭を下げた。



「すみませんっ!毎朝迎えに行くと約束したのは俺の方なのに!」

「だっ、大丈夫だって!そんなに気にしなくていいよっ!」



綱吉は焦りながら頭を上げるように宥めている。獄寺はもう1度大声で誤り顔を上げた。



「それじゃあ、すみませんが失礼します。自分、行かなければいけない所があるので・・・!」



そう言い猛スピードで教室から出て行った。自分に行き先も告げず何処かへ行くというのはそれほど無いことなので、綱吉は少し気になった。大方雲雀の所だと予想はつくが。
綱吉の予想通り獄寺は応接室へと向かっていた。昼休みに会いに行けばいいと思っていたが、我慢が出来ない。



「おい雲雀!猫!!」



応接室の扉をノックも無しに開け呼び掛けた。猫は雲雀の座っている席の卓上にちょこんと乗っている。雲雀が書いている書類を大人しく見ているようだった。



「そんなに叫ばなくてもちゃんと見てる」

「おう!やっぱ可愛いなぁ・・・!あれ、これどうしたんだ?」



獄寺の目に付いたのは、猫の近くに置かれてあるキャットフード。皿に盛られており食べた痕跡が残っている。



「あぁこれ?草壁に用意させた。よく鳴くから何か与えた方がいいのかと思って」

「おぉっ、お前も一応血の通ったこと出切んだな」



猫は獄寺のパンは結局少ししか食べていない。腹もまだ空かしていただろう。
雲雀は獄寺の台詞にムッとしながらも猫の喉を撫でた。可愛いという感情は雲雀にだって共通している。泣き声や仕草がとても愛らしい。
しばらくの間、獄寺のは雲雀の仕事に迷惑が掛からない程度に猫とじゃれていた。すると休み時間の終わりを告げるチャイムが耳に入った。



「やべ、もう帰らねぇとな・・・」



さぼれることならさぼりたいが、次の授業は自習。綱吉と数学の復習をすることになっている。寂しいが綱吉の勉強を優先させなければならない。猫を雲雀に手渡した。



「俺戻るわ。また来るからちゃんと見とけよっ!」

「はいはい」



雲雀は獄寺が猫にかなり依存していることに呆れながら軽い返事を並べた。獄寺は名残惜しみながら教室へと戻った。
教室内は自習なだけあって騒がしいく、まともに勉強している者は多くはない。鞄から数学の教科書を取り出し、綱吉の机まで行った。



「10代目!恐れ多いですが、教えさせていただきます!」

「あ、うんっ。俺全然理解出来てないとこあんだけど・・・」



綱吉から解けない問題を訊き、わかるまでお得いの理論で説明する。綱吉は教え始めた最初の頃は、理論説明はややこしく理解し難かったが、最近は慣れてわかるようになっている。
獄寺は尊敬している綱吉に少しでも賢くなって欲しい為、親身になって教えた。



「---となるんですけど、わかりますか?」

「・・・あっ、わかった気がする」



綱吉は理解したようにもう1度問題を解く。時間は少々掛かるが問題を解き終え、獄寺に見せた。



「どう?合ってる・・・かな?」

「・・・はい、正解です!流石10代目!」



綱吉の回答は見事正解。獄寺は綱吉が喜んでいる姿を見て、自分も嬉しくなった。その後繰り返し解き方を教え、少し経つと2限目終了のチャイムが鳴った。
綱吉は疲れを和らげる為に体を伸ばした。



「あーっ、疲れた・・・。でも獄寺くん、ありがとっ。結構わかるようになってきた」

「それはよかったです!」



獄寺はまた応接室へ行こうか迷ったが、別れるときに悲しくなるのが辛いのでグッと堪えた。
その調子でつならない3限4限と授業を受け、やっとの思いで昼休みを迎えた。綱吉に謝り、1限の終わりと同じように応接室へ向かう。
だが途中で昼に食べる筈だったパンは猫にあげたことを思い出し、購買へ寄ることにした。校舎から出て中庭を通ろうとすると、叫び声が耳に入ってきた。不審に思い聞こえた方へ行くと、群れていたと思われる柄の悪い不良が雲雀の手によって制裁を受けていた。周りの生徒は怖がり離れていく中、獄寺は立ち止まり雲雀が不良を倒すまで待っていた。



「僕の前で群れたらこうなること、わかったよね?」

「はっ、はい!すみません2度と群れません・・・っ!」



終わるまでの時間は呆気なく、不良は血塗れになりながら降参し逃げて行った。獄寺は服に着いた血を振り払っている雲雀に近付き声を掛けた。



「おっす。また派手にやってんな」

「あ、見てたの?」



アスファルトは広い範囲で真っ赤に染まっている。不良を庇う気は無いが、毎日のように群れる生徒をここまでするのはやりすぎだ。
そこで獄寺は猫がこの場にいないことに気付く。こんな危ない場にいられても困るが。



「お前、あの猫は?」

「猫のこと気にしすぎ。寝てたよ、ぐっすり」



猫はちゃんといることに安心した。それと同時に購買に行かなければならないことを思い出す。



「で、君は応接室来るの来ないのどっち?」

「行くに決まってんだろ!昼飯買ってから行くから先行ってろ!」



獄寺は購買へ行き、今日の気分で様々な種類の中から1つ頼む。猫に飲ます分の牛乳も忘れずに。金を支払い、軽い足取りで応接室へ行った。猫に会える楽しみでいっぱいだった。



「買って来たぜ。まだ寝てんのか?」

「うん。気持ち良さそうに寝てる」



猫は窓からの陽射しが心地良く差し込まれる場所で寝ていた。雲雀がしたのか毛布が掛けられている。
獄寺は雲雀の使っている机に乗り、パンを食べ始めた。雲雀は獄寺にはわからない書類を休まず色々と書いている。



「腹減ってねぇのか?」

「うん。朝食べたの遅かったしね。というかちゃんと座って食べなよ。行儀悪い」



机に乗っていることを指摘されたが今更移動するのは面倒臭くそのままでいた。雲雀もそれ以上は突っ掛かろうとしない。
獄寺は雲雀が何そそこまで熱心に書いているのか気になり書類に視線を移した。



「ずっと気になってんだけど、何書いてんだ?しかも毎日大量に」

「学校内部のこととか。あ、企業秘密だから見ないで。それに自分が好きでしてることだから」

「企業秘密とかあんのかよ」



風紀委員で不良という異質な存在にも関わらず、重要な仕事を貰っているということはそれだけの実力があるということ。改めて考えると雲雀は凄いということを実感しながら、こっそり書類を覗き込んだ。



「こんなんが好きとか、お前の頭どうなってんだ?」

「どうもなってない。何かを決めていくって楽しいし」



そう言い雲雀は新しい書類に替えた。同じく文字が並んでおり記入欄が幾つかある。
群れている人達を咬み殺すことだけが楽しみだと思っていた獄寺にとって、書類整理が楽しいという雲雀に少し驚いた。



「あ、そういえば猫の名前どうするか決めようぜ」



まだ猫に名前が付いていないことに気付く。これから飼うつもりなのだからちゃんとと決めてあげないといけない。出来るだけ可愛らしく、猫らしい名前。



「え、本格的に飼うつもりなの?」

「当たり前だろ!だから連れて来たんだ!」



雲雀は今日1日だけ臨時で面倒見て、明日からは他人なり保健所なり連れて行くと思っていた為予想外だった。それにいきなり名前を考えろと言われても何も思いつかない。それは獄寺も同じで、言いだしっぺに関わらず真剣に悩んでいた。



「例えばどんな名前がいいの?」

「例えば?例えばだなぁ・・・うーん、例え・・・」



獄寺は例の1つも考えれていなかった。理想とは逆に命名とは難しいもので、脳内にはタマなどの典型的な名しかない。
だが猫を凝視し何かいいのはないかと考えていると、いい名を思いついた。指を擦りパチンと音を鳴らす。
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