小説3

□引っ掛け
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どれだけ願おうが地球は太陽を照らすことをやめようとしないし、風は吹くことを知らない。気休めに付けた風鈴は今だに1度も鳴ったことが無く、ついに気温は35度を越した。
そう、猛暑だ。



「おい・・・、次はてめぇの番だ」

「・・・あぁ・・・」



高杉は桂に団扇を私扇がせた。今2人はこの夏の暑さを生き抜く為に、分ごとに団扇を交換しお互いを扇いでいた。
だが生々しい温い風が来るだけで決して涼しくはならない。
だからといって2人に扇風機やクーラーなどの電気に頼る物は金が無く買えないのだ。



「高杉・・・俺はもう腕がもたん。扇ぎ疲れた・・・」

「んなもん俺も同じだ・・・」



何時間同じことを繰り返したのかは既にわからない、それほど涼しさを求める為に扇ぎ続けていた。
高杉はついに座っていることに限界を感じ寝転んだ。
そこで目に入ったのはカレンダー。日付など今迄どうでもいい存在だったので然程見たりしなかったが、気になることを見つけた。



「おいヅラ、今日何曜日だ」

「ヅラじゃない、桂だ。確か火曜日だった気がせんでもない」



高杉の気になっていることは確信へと変わった。今日は8月10日、火曜日。自分自身忘れ掛けていた誕生日だ。
別にこの歳になってまで祝ってもらいたいという願望は無いが、折角この場に桂がいるのだから、おめでとうの一言くらいは欲しい。



「ヅラァ、今日が何の日かわかるか?」



高杉は桂を試した。一応恋人という立場の人間なのだから知っているだろうという期待を込めながら。
だが桂はキョトンとわからないといった素振りを見せる。



「何か・・・特別なことでもあるのか?」



桂は素でわかっていない態度だ。高杉は正直ショックだった。自分は愛している桂の誕生日にはしっかり祝い、柄にも無いプレゼントを贈ったにも関わらず、相手は覚えない。



「はぁ・・・。お前、以外と白状者なんだな・・・。いいか、今日は」

「高杉、お前の誕生日。だろ?」



桂は高杉の言葉を遮り先に言い、勝ったと小声で呟き笑った。桂は演技で惚けていたのだ。高杉のリアクション見たさで。
高杉は普段桂が騙したりすることなど無いのであっさり引っ掛かってしまった。



「おめでとう、高杉」



桂は寝転んだ態勢の高杉に頭を屈めて唇を当てた。金欠の桂にはプレゼントなんてあげられない。なのでキスはいつも高杉からすることが多いので桂からしてみたのだ。プレゼントと呼ぶには程遠いが、大事なのは気持ち。
その時、風鈴が微かにチリン、と音を立てた。



100808
晋ちゃん誕生日おめでとう!桂さんとイチャイチャしとけばいいよ!


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