小説4

□ずるい人
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宴が終わった後はとても暗殺部隊とは思えない状況だった。XANXUSまでもが酔いつぶれ、最早何のために開いたパーティーなのかわからない。
ルッスーリアはそんな呑み過ぎで寝ている皆に毛布を掛け、騒いだ後のやけに静まったこの場でまったりする為に紅茶を注ぐ。
同じく唯一起きているスクアーロの分と一緒に。



「っあ゛ー・・・頭痛ぇ・・・調子乗って呑み過ぎた・・・」

「大丈夫?かなり呑んでたものね。でもあなたの為に容易したお酒だからいくら呑んでも構わないけど、問題はこの子たちよ・・・」



ベルの筆跡でSqualo Buon Compleanno!と書かれた横長の大きな紙が壁に貼られている談話室では、スクアーロの誕生日を祝うことを目的としたパーティーが開催されていた。
だが本当の目的は呑んで騒ぐ口実だ。スクアーロはそれを踏まえた上でパーティーのついでに贈られてくる祝福の言葉を受け取っていた。
談話室ではXANXUSを筆頭にベルやマーモンやレヴィといった幹部の面々、好くアーロを慕う平隊員が各々雑魚寝をしている。だがXANXUSだけは椅子に座ったまま寝ているのが何とも言えない雰囲気を作っていた。こんなときでも一応品はあるようだ。



「はい。この紅茶もね、スクちゃんの好きそうなものをブレンドしてもらったのよ」

「お、わざわざすまねぇなぁ」



今日の為予め注文していたオリジナルの紅茶だ。少々値は張ったが、その分味があり惜しくはない。
スクアーロが美味しそうに啜っているのを確認してからルッスーリアもカップに口を付けた。



「にしてもこれ、かなりいいのじゃねぇかぁ?凄ぇ喉越しがいいっつーか」

「よさをわかってくれるのは嬉しいけど、流石に紅茶に喉越しがいいって感想はないわ。お蕎麦じゃないんだから」



ルッスーリアのお茶に付き合っている内に、最初はカフェオレと紅茶が一緒だと思っていたスクアーロも今ではかなり詳しい。自腹を切ってまで買ってきてもらった紅茶も如何ほど高いかはわかるようになってきた。ルッスーリアが何故紅茶にそこまでの金額を掛けるかにはれっきとした理由があった。



「何でこんないいの買うんだぁ?いくら何でも奮発しすぎじゃねぇかぁ」

「だって、スクちゃんプレゼントだったら受け取ってくれないでしょ?こういう形ならちゃんと残さず飲んでくれるじゃない」



ルッスーリアは寂しげな笑いを浮かべた。
スクアーロは誰からのプレゼントも受け取らなかった。ルッスーリアは勿論のこと、ディーノや山本などはとっておきのプレゼントを用意していたというのに、返事は「俺なんかにやるくらいなら自分で使え」の一点張り。
わざと言っているのかと思わせるほど格好良い大師だが、本人は素で言っていた。
届くプレゼントはどれもスクアーロの好みを考えた上での物だ。不要になる物はないだろう。それなのに、何一つとして受け取ることはなかった。
ルッスーリアは何故せっかく貰える物を受け取らないのか、ずっと気になっていた。



「くれようとしたもんを断ってんのは申し訳ねぇと思ってる。でも俺は生まれてきたことに感謝されるような人間じゃねぇし、人の命を喰って生きてる人間が祝われるのって、可笑しな話じゃねぇか」



望んで人を殺めているわけではない。理由があってこそ成り立つ汚職だ。
だが決して嫌いなわけではない。寧ろずっと血を見ない生活は苦しく感じる。心の奥から苛々が募り、どうも落ち着かない。
人の血が、自分の潤いになるのだ。
それはスクアーロだけではなく、この世界に生きてる者は皆当てはまるだろう。



「それに俺はXANXUSとこうして1年過ごせたっていうのが最高のプレゼントだと思ってるしよぉ。見ろよ、あんな寝顔をリング争奪戦前後に見せたことなんてあったかぁ?幸せなことじゃねぇか。俺はこれ以上は何も望まねぇ。これ以上は贅沢って言うもんだぁ」



腕を組み睡眠中でも出ている威圧感も、スクアーロからすれば魅力の1つに感じ、横目で幸せだと感じられる最大の理由を見つめる。
凍らされていた8年間、ずっと孤独だった8年間。自分だけ年をとるのが辛くてしかたなかった頃が思い出となり蘇る。
労いの言葉も愛のこもったプレゼントもないが、隣にいるだけで愛を確信できる。



「少しは欲張ってもいいのよ?今まで散々我慢してきたのだから」

「俺基準で世界が動いてるってわけでもねぇのに、欲ばっかり言ってられっかよ」



スクアーロの世界の基準はXANXUSだ。
だからって欲を張らないのはスクアーロにしたら謙虚すぎると思いつつも心の中へ閉まっておいた。
計算なしに自分の本能のままに生きて、ここまで言動の1つ1つが格好良い男がはたしてスクアーロ以外にいるのだろうか。
ルッスーリアは同僚であることを誇りに思いながら、少しぬるくなってしまった紅茶を1口飲んだ。



11/01/17
仲の良い2人が大好きです。素でかっこいいことする鮫さんはずるい人なのです。
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