小説4

□深夜3時の電話
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外を見渡せばカップルが楽しそうにしているというのに、自分は1人家で淹れたての紅茶を啜るという大変悲しげな状況。
携帯のメールフォルダを意味もなく除いたり、元から整理されている部屋にある雑貨の位置を変えてみたり。
とにかく、何かしていないと辛かった。他のことで頭をいっぱいにしないと、どうしても考えてしまって。



「ツッくん、今頃何してるのかなぁ・・・」



京子はずっと考えていた。大好きな彼、綱吉のことを。張り裂けそうな会いたいという勘定を必死で抑えて、今していそうなことを妄想で補う。
想像ごときで足りたりなどしないが、そうでもしなければ何かやらかしそうな自分が怖かった。下手すれば今からイタリアに直行してしまいそうな自分が。



「電話、したいなぁ・・・」



綱吉の登録されている画面まで行き、あとは通話ボタンを押すだけで電話が掛けられるのところで勇気が出せず、携帯と閉じて握り締める。
ツッくんの方から掛けてきてくれたらいいのに、なんて我が儘なことを思いながらメールのデータフォルダと電話番号登録画面を交互に見る。データフォルダには綱吉からの沢山のメールが詰まっている。誤字脱字がやけに多い、不器用なメールの数々。
でも最近はそのメールの返信も遅い。2、3日後は当たり前。時には返って来ないこともある。
それなら電話で、と言いたいところだが今の仕事は非常に忙しいらしい。どうせ私の相手なんてしてくれないんじゃ、という強い思いがあった。
だが我慢しきれなくなっていた京子は、思い切ってボタンを押した。



「お願いだから出て・・・」



プルルル、と呼び出し音が鳴る。10回ほど鳴っても出てくれず、諦めかけていたそのとき、まだはっきりしない綱吉の声が聞こえた。



「はぁい・・・誰・・・?」

「えっ、ツッくんもしかして、寝てた・・・!?」

「あれ、この声京子ちゃん・・・っ?」



京子の予感は当たり、最悪なことをしてしまったと頭を抱える。せっかく望んでいた声を聞けたというのに。とりあえず早めに切って綱吉を寝かせてあげなければならない。



「ごめんねっ、そっちが夜なんて気付かなくって・・・!」

「いいよ全然、切らないくていいから。あ、でも国際料金高つくから俺の携帯から掛け直そうか?」

「ううんっ、大丈夫」



ぐっすり眠っていたところを起こしたにも関わらずお金のことまで気にしてくれるなんて相変らず優しいなぁ、と思いながらもその優しさに甘えることにした。我が儘だとわかっていても、1秒でも多く喋っていたい。



「それにしてもどうしたの?京子ちゃんから電話なんて珍しい・・・。何か、あった?」



睡魔から逃げ切っていないような声でゆっくりと発する。特に何かあったわけではない。ただ、会いたいという気持ちが強まっただけ。
「会いたい」と一言言えば楽になれるし、もしかしたら会いに来てくれるかも知れない。でも、その分綱吉にはプレッシャーが掛かり、仕事の邪魔となる。



「何もないよ。ちょっと声が聞きたかっただけ」

「そっか。俺も丁度聞きたいなって思ってたところ」



眠たいのか口数の少ない綱吉の台詞を頭の中で何度もリピートする。声が聞けたことで、さきほどの落ち着きのない心情が落ち着いていくようだった。



「お仕事大変?」

「まぁ・・・ね。休める時間が全然なくてさ・・・」



一言一言に仕事の苦労や重みが圧し掛かっている。1人じゃ抱えきれないほどに辛くて、でも乗り越えなくちゃいけなくて。
全てを背負って生きるというのは、考え付かないほどに困難なこと。元気を出して欲しいが、どう励ましていいかわからなかった。



「でも、仕事片付けたら絶対日本に戻る。いちばんに京子ちゃんに会いに行くよ」

「ツッくん・・・ありがと・・・」



いちばん聞きたかった事が聞けて、嬉しさのあまりに目頭が熱くなった。会いたい、顔が見たい。綱吉はその願いを叶えようとしてくれている。
京子は充分気持ちが満たされたので、休みがないと言っている綱吉の休み時間を邪魔してはいけないと、もう切るねと言い、少し辛くなりながらも切った。
大丈夫だ、大丈夫、ツッくんはすぐに来てくれる。そう祈りながら携帯を閉じた。



---バアァァァンッ・・・

その数日後、京子の祈りは儚く、綱吉は銃声と共に倒れた---



101129
バッドエンドじゃない・・・と言い張ってみるお題8つ目は最近ブームなツナ京です。
10年後ツッくんはザラに好きとか言えちゃう感じのプレイボーイに育ってるといいと思います。

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