小説4

□好き嫌い
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予想通りの出来事だった、箸を置き、旨かったと一言言いながらごろんと横になる。食べてすぐ寝転がることにも注意してやりたいが、それ以外にも指摘すべき重大なことが高杉にはある。まだ食べている最中だが一旦止め、崩すことのない真っ直ぐな姿勢で口を開いた。



「高杉、残ってるぞ。ごちそうさまはまだ早い」



桂の視線の先には高杉と、高杉の食べた形跡のある皿。本来なら全部平らげるべき皿には、まるで小学生の子供のように緑の野菜たちが残されている。
高杉と桂は両方料理が出来ず夕食にはよく出前を取るのだが、今日は珍しく桂の手料理だ。残されるなんて堪ったもんじゃない。
高杉は大の大人とは思えないほど好き嫌いが激しく、毎回何かしら残っている。
このままでは食べてもらえず処分される野菜たちが可哀想だ。そう思い今迄目を渋々瞑ってきたが、ちゃんと注意することにしたのだ。



「食べたくねぇ」



高杉は嫌そうに顔を顰めて答えた。残っているのはグリーンピースやピーマンなど、子供の敵と呼ばれる野菜代表だ。
20代半ばに差し掛かる年齢だというのに食べれないのは、恥ずかしいを通り越して情けない。何とかして克服させなければならない。



「文句を言わずに食べろ。いいか、野菜1つにもちゃんと神様が宿っていて---」

「食べねぇっつったら食べねぇ」



高杉は意地を張り、テレビの電源を付け完全に食事には戻らない態度をしている。このまま言葉だけで伝えても無駄だと冊子、桂は次の手段に移した。
グリーンピースとピーマンをある程度スプーンに乗せ、高杉に近付ける。無理矢理口の中に放り込む、食わず嫌いだということに気付かせる極めて一般的な手段だ。



「ほら高杉。美味しいピーマンくんとグリーンピースさんだ、2人とも構ってもらいたがってるぞ」

「その呼び方やめろ!俺は食わねぇからな!」



スプーンを高杉の口元まで持って行くが、絶対に入れようとはせず立ち上がり逃げようとしているだけ。
見っともない。見っともなさすぎる。これが本当に成人した人間なのだろうか。本格的に疑うようになったところで、少し方法を変えてみることにした。



「・・・わかった。じゃあ、ん、」



桂がとった行動は、自分の口で野菜を咥え、高杉の口元に当てるという、口移しの野菜バージョンだ。
一見変わった風にしか見えないが、実は口移しということで効果は期待できる---というわけでもなく、かなり馬鹿げている方法な為高杉も呆れている。



「そんなことしても食わねぇからな。俺がそんなことで釣れると思うな」

「んっ、」



そう言いながらもさきほどよりかは桂を気にするようになった。やはり口移しともなると、男心敵につい乗せられてしまう。桂は高杉をじっと見つめ、早く食べるように目線で急かす。



「ん、早く」

「・・・あぁもううっせぇなァ!」



高杉は桂の顔をぐっと掴み唇を押し当てた。野菜をきちんと自分の口内へ入れ、気合で喉に通す。何とも言えぬ苦い味が口内に広まるが、消毒するように唇を重ねたまま、舌と舌を絡ませ苦味が取れるまで何も考えずに動かし続けた。



「っはぁ・・・どうだ!食ってやったぞ!!」

「あぁ・・・、これからも食べるんだな」



高杉が次に嫌だと否定の声を発するまでの短い間に、微笑みながら桂はまだ残っている野菜を咥えた。



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お題4つ目。高杉も桂も馬鹿な大人です。

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