小説4

□1冊のノート
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それからXANXUSとスクアーロは毎日交換ノートを続けた。XANXUSの書く量は日によって極端に違い、一文で終わらせることもあれば、半分ほど埋める日もあれば。だがどんな内容を書こうが、スクアーロは決まって笑顔だった。
スクアーロはXANXUSとは逆に毎日毎日大量の長文を書いた。読みにくいと文句を言われたら話題ごとにペンで色分けし、雑だと言われたら普段の倍以上の時間を掛け丁寧に書いた。
大袈裟に思うだろうが、このノートをは次第に2人を繋ぐ大切なものとなっていた。



そんなある日、交換ノートがそこそこ続いていた日のことだった。今日はXANXUSが書いてくる番で、いつもの場所へ行くと、何かを決意したように見える雰囲気が違うスクアーロがいた。
XANXUSがスクアーロの前に立つと、向けられたのは笑顔ではなく、真剣な眼差しだった。



「XANXUS、俺をお前の部下、お前の剣にしてくれ」

「・・・何だいきなり」



真面目なことを言われたのは始めて会話をしたとき以来だった、初めて会話を交わしたときもスクアーロはそう申し出ていた。勿論見ず知らずの人間の申し出を受け入れる筈もなく、そのときは無視して終わった。
けれど今のスクアーロは違う。XANXUSの周りにいる誰よりも強く、一生誓い続ける忠誠心を抱いている。それに交換ノートのお蔭で、心の内も少しだが出せるようになっていた。
断る理由はない。だが、まだ人を信じきれず、繊細なことには人一倍不器用なXANXUSは素直に首を縦に振ることはできなかった。



「・・・ふん・・・」



返事になってない返事を出し、交換ノートを投げつけるように渡し、すぐにその場から逃げ出した。自分は逃げた。スクアーロが眩しすぎて、逃げてしまったのだ。
後悔ばかりが浮かんでくる。せっかくのスクアーロの気持ちを無碍にしてしまった。だが今更スクアーロの元へ戻るわけにもいかず、むしゃくしゃした感情を抑える為に無意識の内に壁を殴った。



それから2日間、スクアーロはXANXUSの前に姿を見せなかった。わざと来ないのかと思い、共通の知り合い、ディーノに尋ねたが帰ってきたのは「俺も知らない」だった。
自分でも以外なほどにXANXUSはスクアーロを気にしていた。



姿を消して3日目、傷まみれのスクアーロが何事もなかったかのようにいつもの場所にいた。XANXUSは自然と早足で駆け寄った。
何故消えた。訊きたいことはただ1つだ。



「お前・・・今迄何処へ消えてた」

「おっ、3日振りだな」

「そんなことは聞いてねぇ
。何処行ってた」



いつものような笑顔で絆創膏を貼り直しているスクアーロに、無償に腹が立った。
スクアーロはXANXUSの質問には答えず、鞄の中からノートを取り出そうとする。
そのときにXANXUSは驚愕するほどのことに気付いた。スクアーロの左手がないことに。グルグルと包帯を巻かれている手首を駆使し、不便そうにノートを取り出した。



「カス・・・お前、手・・・」

「・・・剣帝テュールはヴァリアーのボスながらにも、一生忠誠を誓うべき主を見つけ、その主の為に左手を落とした。俺はどうしたらお前に忠誠を誓うってのを信じてもらえるかわかんなかったから、ただの真似事になっちまったけど、俺は本気だ。あっ、それと俺、テュール倒したんだぜ?凄くねぇかぁ!?」



XANXUSは言葉が出なかった。利益があるかもわからないのに生涯残る傷を負ったことに対してと、自分の為にここまで尽くしてくれる人がいたことに対して。
スクアーロの単純で、だけど心からの言動に驚きと呆れを通り越し、笑いが込み上げてきた。



「はっ、はは・・・!・・・いいだろう。今日からお前は、スクアーロが俺の剣だ」

「ザ、XANXUS・・・本当かぁ・・・?」

「あぁ。ただし常に俺のことを最前線に考えろ。俺の為に行動しろ。わかったな?」

「お゛、お゛ぉ!俺の思考は全てXANXUSのもんだぁ」



スクアーロは大声で返事をした。やっと認めてもらえ、報われた気持ちでいっぱいだ。
XANXUSは他の人にすれば機知外紛いの行動をとるスクアーロを気に入った。クーデターなんてものを企んでいる自分には相応しいと思える部分がある。



「スクアーロ、施しだ」



XANXUSはガッツポーズをしているスクアーロのシャツの襟を掴み、自分の方へと顔を寄せ唇を当てた。スクアーロは一瞬の出来事に何が起こったかわからず、唇が離れるとその場に座り込んだ。
XANXUSが勝手にとった行動だが、何もスクアーロの気持ちを知らずに行ったわけではない。スクアーロは剣士として、人としての2つの感情でXANXUSのことを好いているのを、見抜いた上での行動だ。



「え・・・XANXUS、お前今・・・」



時間が経過するにつれてXANXUSが何をしたか段々実感が湧き、序々に頬も紅潮していった。XANXUSはそんなスクアーロを放って、また普段通りに下足室へと入った。交換ノートを受け取らず。



その日からXANXUSとスクアーロは常に一緒にいるようになったが、交換ノートの行方はわからない。きっとどちらかの机の引き出しの中で眠っているのだろう。
2人に交換ノートは不要だ。あのノートはあくまでも仲良くなる為に使っていたもの。心を通わせた2人に、使う意味は既にない。

だが1ページ、スクアーロが最後に書いたページをXANXUSは見ていない。
剣帝テュールと戦う前に書いたときのページが---



「---う゛お゛っ、凄ぇ!XANXUS!凄ぇ懐かしいもん出てきたぞぉ!」



18年という長いときを経て、本棚を整理していたスクアーロの元に再び現れたのは、あの交換ノートだった。懐かしく感じながらパラパラとページを捲る。
どこもかしかもボロボロで、所々インクが掠れていて見えない箇所もあるが、スクアーロがXANXUSと繋がりを持てた大事な思い出の塊だ。



「何だそのボロいノートは。」

「俺らがガキの頃交換ノートやってたの覚えてっかぁ?そのノートだぁ」

「・・・あぁ、そういえばやってたな」



XANXUSは交換ノートをやっていた頃を思い出し、興味が湧いたのでスクアーロから取り上げノートに目を通す。
適当に捲っていき、目に留まったページはあの、XANXUSの読んでいない最後のページだった。



「お前、こんなこと書いてたのか」



いつもの細かく書かれているのとは一転変わり、殴り書きの字で「好きだ」と3文字だけ書かれていた。テュールと戦う直前の、不安定な気持ちの現れだろう。
スクアーロはそのページを見て、恥ずかしそうに口元に手を当てた。



「こんなこと書いてたんだなぁ・・・14の俺・・・」



懐かしい14歳の字、14歳の想い。時は流れてもどちらも変わっておらず、寧ろ想いの方は日に日に増していることに、何だか嬉しく感じれた。



110113
結構前に書いた長文を引っ張り出してきました。
あの8年間の間にスクアーロがこの交換ノートを見つけてしまい居た堪れなくなる派生話とか入れようかと思ったんですが滅多に長文書かないせいか体力的に無理でした。
学生時代の2人に幸あれ。

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