小説4

□1冊のノート
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スクアーロは悩んでいた。毎日同じことを考え続けるが答えは出ず、頭の中がただぐるぐると回転するだけ。
何をそこまで悩んでいるのかというと、スクアーロにとって特別な存在のXANXUSのことだ。
どうしたら仲を深められるのか、どうしたら自分に心を開いてくれるのか。今日も答えは出ないとわかってはいるが、やはり考えてしまう。スクアーロは純粋にXANXUSと仲良くなりたいだけなのだ。



「はぁ・・・」



どうすればいいのかちっともわからない。話し掛けても無視されることが大方で、懲りずに喋り続けたところでまともな返事が来た例がない。
何かXANXUSの気を引けるようなこと、ものが必要だ。だがそれが簡単に思いつくようであれば、ここまで悩んでいないし、剣以外のことは入らない頭脳のスクアーロには、何もいいアイデアは思い浮かばなかった。



「どうしたの?何か悩み事でもあるの?」



憂鬱そうな顔をして悩み詰めていると、クラスメイトの女子が声を掛けてきた。スクアーロは整った容姿のおかげか女子に盛大な人気を得ている。そんな女子等はお近づきになるきっかけを探しており、溜息1つつけばすぐに寄って来る。
スクアーロは周りの人よりかは異性に興味を持たず、適当にあしらうことが多いが、もしかしたらいい案を答えてくれるかも知れないと微かな期待を抱いて尋ねてみた。



「なぁ、人と仲良くなるにはどうすりゃいいと思う?」

「誰か気になってる人でもいるの?」

「ちょっとなぁ」



女子生徒は少しの間考える素振りを見せた後、ひらめいた顔をした。何を言ってくれるのか期待度を上げ、耳を傾けた。



「仲良くなりたいんだったらアレがいいんじゃない?えっとねぇ・・・---」



女子生徒からしたら咄嗟に出てきたものを言ってみただけだけだが、単純なスクアーロからすれば大変なナイスアイディアだった。女子生徒にお礼を告げ、鞄からある物を取り出し早速XANXUSの元へと走った。



XANXUSはテラスで1人きり。何もせずにぼーっとしているだけのようだ。絶好のタイミングに来れたことに一先ず安心し、テラス内へと入った。
いつもは無断に入るなと叱られる上に、スクアーロが来たと気付くとすぐに他の場所へと移動しようとする。なのでなるべく刺激せず、何処かへ行ってしまう前に話し掛けることを心がけている。



「よっ、御曹司」

「・・・用件を言え。俺はお前と関わってる暇はねぇ」



「ぼーっとしてただけなのにかぁ?」と口が滑りそうになり、慌てて塞ぐ。気紛れなXANXUSと会話するには少しコツがいる。そのことも含めたXANXUSを気に入っいてるスクアーロには関係のない話だが。
スクアーロが鞄から取り出したある物とは、1冊の未使用のノートだった。脇に抱えていたノートをXANXUSに見せ、笑顔で言った。



「俺と2人で、交換ノートしようぜぇ!」



楽しそうな笑みを向けているスクアーロとは正反対に、XANXUSの表情は歪んでいくだけだった。
スクアーロは先ほど話した女子生徒に、仲良くなるには交換ノートをすればいいとアドバイスしてもらったのだ。交換ノートとはその名の通り、複数人で今日あったことなどを1人ず書き回していくというもの。女子なら1度はしたことがあるだろう。
だがするのはあくまでも女子だ。駄目ではないが、普通は男同士がするものではない。



「誰がそんなことするか。時間の無駄だ」



交換ノートをする前に、XANXUSにはすることが山ほどある。時期ボス候補と呼ばれているからには、知識や学力をつける為の勉強を人一倍しなければないらない。1秒だって時間が惜しいくらい。そんな時間を割いて休憩しに来たというのにこの有様だ。
もう少し後に来ればよかったと公開しながら、差し出されたノートを付き返した。



「1人でやってろ」

「そんなこと言わずにやろうぜぇ。意外とはまるかもしれないしよぉっ!」

「はまらん」



馴れ馴れしく肩を組もうとするスクアーロの手を振り払い、勉強を再開しようとテラスから出たようとした。



「今日俺書いてくるからなぁ!明日渡すから絶対書けよぉ!」



せっかくの休憩を邪魔されて不機嫌になったザンザスとは反比例に、スクアーロは上機嫌で大きく手を振り言った。
ザンザスは振り返ることなく舌打ちし、自分専用の勉強部屋へと戻った。

一方スクアーロは一度はっきりと断られたことも忘れ、ノートに何を書くか想像を膨らませながらテラスを後にした。





翌日、交換ノートのことなど綺麗さっぱり忘れていたザンザスは、登校用の高級車から降り、いつもと変わらない普通の人では近付きづらい雰囲気を醸し出しながら校内へと向かった。
靴を履き替えるために下足室の方へ行こうとすると、スクアーロの姿が目に入り、先日の出来事を思い出させた。違う所から入ろうと方向転換するが、運悪く目が合ってしまい、スクアーロは顔を明るくしながら寄って来た。



「おっす!今日はいつもより少し早めだなぁ。じゃ、はい。ちゃんと書いてこいよぉ」



予想したとおりスクアーロは交換ノートをXANXUSに手渡した。表紙には女子生徒のものを真似たのか、汚い字で「XANXUS&スクアーロ」と書かれてある。
昨日と変わらずXANXUSに書く気は一切なく受け取る気さえもなかったが、スクアーロは逃げるように消え去ってしまい返すにも返せない状況となっていた。渋々鞄に入れ、今度こそ下足室へ入った。



「ったく・・・こんなもん書いて何の得があんだ」



ぶつぶつ文句を言いながら教室まで歩くついでにノートの1ページ目を捲ってみた。そこにはスクアーロの決して丁寧とは言えない字でページの殆どが埋まっていた。余白が全くなく、見る分にも面倒になるくらいにびっしりと。
XANXUSは何をそんなに書いているのか気になり、受け取った当時にはなかった見る気が少し湧き、文頭から目を通し始めた。



<6月14日 木曜日 天気は晴れ な、なんかきんちょうするなぁ!でもこれからお前とこうかんノートやって、仲良くなれると思うとうれしいぜぇ!>


律儀に日付と天気まで書かれてある文の始めはそう記されていた。勝手に仲良くなれることを決め付けているのは気に食わないが、どんどん読み進めていく。
書いてある内容は主にスクアーロの剣への思い、XANXUSへの想い、今日あったくだらない出来事など。不器用ながらにもスクアーロなりに、XANXUSへ自分の想いを伝えようとしていた。
ページの最後には、絶対XANXUSも書けよ、と大きく書かれている。心が動かされた、と言えば変かも知れないが、XANXUSは僅かに自分も書こうという気持ちが芽生えた。



「---とは言っても・・・」



授業中、XANXUSは例の交換ノートを机に開けていた。スクアーロの書いてある次のページにぺンを乗せるが全く進まない。何を書けばいいのか、呆れるほどに見つからなかった。
XANXUSは授業をまともに受けたことはない。とっくに高校生レベルの勉強が終わっているからだ。クラスメイトの誰よりも優秀で、誰よりも不真面目。授業には単位を取る為に出ているようなもので、教える側も立場的にきつい注意はできない。クラスメイトも気安く声を掛けることは出来ず、XANXUSは浮いた存在だった。
そんなXANXUSがいつもは寝ている授業を起きて、しかも考え込んでいるという珍しい光景に周りの視線はXANXUSに集っていた。



「ちっ」



視線を送ってくる人らを睨むと、すぐに逸らし前を向いた。そこまで自分が起きているのが気になるのか?と自問自答しながら書く内容を考えた。

授業が終わる頃にはページの4分の1はXANXUSの雑ではあるが達筆な字で埋まっていた。内容はスクアーロほど充実しておらず、素っ気無い文章ばかり。だがそれでもちゃんと書いているだけ凄いことだ。
人との関わりを持とうとしないXANXUSが、今すぐにでも破ろうと思えば破れる交換ノートを回そうとしているのだから。



翌日、昨日と同じようにスクアーロは下足室の入り口でXANXUSを待っていた。XANXUSはスクアーロがいることに気付くと交換ノートを手にし、スクアーロの前に自ら行き無言で差し出した。
スクアーロはまさか本当に書いてくるとは想っておらず、驚いて目を見開かせている。



「そこまで俺が書くのは以外か?」

「以外っつーか・・・絶対捨ててると思っててよぉ・・・」



そう言い次は目を輝かせ、とても嬉しそうにノートを受け取った。大切そうに両手で抱えている。
XANXUSは交換ノートを回してもらったことが何故そんなに嬉しいのか疑問を持つが、スクアーロの表情を見れば一目瞭然だった。
見たことのない、幸せそうな表情。XANXUSにだけ見せる優しさに溢れた表情だ。



「・・・ただの気紛れだ。暇だから書いてやった」

「気紛れでも充分だぁ。じゃ、また明日書いて持ってくるからなぁ!」



スクアーロは満面の笑みで中等部の校舎へと戻った。
XANXUSの心情はいつになく混乱していた。いつも9代目の息子という立場を活かし、人に名作を掛けることばかりしてるXANXUSにとって、自分のとった行動で人に喜ばれるのは初めてのことだったからだ。
スクアーロのせいで混乱してると思いたくないXANXUSは、忘れよう忘れようと念じながら早々と靴を履き替え教室へ向かった。

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