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□満月を捕まえる最良の方法
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※雨天。雨宮くん視点





 電話越しにキミの声をきくとき、僕はどんな気持ちかわかる? 声しか伝わらないもどかしさに、胸のあたりがもやもやと重くなる。キミと毎日会えるのなら、あらゆる手をつくして会えるようにする。キミと恋人同士になれるのなら、僕はーー……。



「天馬! 久しぶり」

「太陽、元気だった? 体調のほうはいいの?」


 今日天馬が病院に来てくれたのは僕のお見舞いだ。いつも病院に来るのは、剣城くんと一緒のことが多いからひとりで来てくれるのは嬉しい。
 天馬はベッドの隣にある椅子に座った。そして僕の前に、はい、と袋を差し出す。


「これは?」

「お土産だよ。どういったのがいいかわからないから、俺のおすすめを買ってきたんだ」

「そっか。ありがとう」


 天馬から袋を受け取り、中身を確認する。チョコレートからポテトチップスといったスナック菓子までいろいろ入ってた。こういったお菓子が好きなんだ。
 なかからひとつお菓子をとって天馬に渡す。一瞬、きょとんとした天馬だったけど、食べよう、と言うと顔をほころばせた。


「……でもほんとに俺も食べていいの? 太陽へのお土産なのに」

「ひとりで食べるのは味気ないから」

「太陽……。今度は秋ねえの焼いたクッキー持ってくるね」


 すごく美味しいんだよ、という天馬の笑顔を見られるだけで僕には充分すぎるくらい幸せだった。
 それから、僕たちはいろいろな話をした。録画しておいた試合を見てあれこれ話したり、雷門サッカー部のことを聞いたり。
 話す内容はサッカーのことばかりだ。同じようなことでも飽きない。ちょっと欲を言えば、天馬自身の話をききたい。



「……あっ俺、もう帰らないと」


 時計を見た天馬が、そう言った。いつの間にか、二時間が過ぎてた。長居してごめん、と謝ってくる。僕としてはもっといてくれてかまわないのに。ガタン、と椅子から立ち上がる音がさみしく響いた。
 七時過ぎ……もう少しで冬花さんが来る時間だ。また僕の日常に戻ると思うと気持ちは落ち込みつつあった。


「それじゃあ、またね太陽」


 ねえ、天馬。また明日も来てくれる?
 別れ際にそう言うと、天馬はもちろんと頷いてくれた。
 自分の口許が緩むのがわかった。明日も、来てくれる。それだけですごく胸が高鳴った。どんな話をしようか。どんな話がきけるだろうか。


「嬉しいな」


 天馬の関心が僕に向いてるなんて。


「そう言ってもらえると俺も嬉しいよ」


 ぱあっと花のような笑みを浮かべる天馬。ほんのり赤みがさした顔を見て本当に嬉しいんだなと思った。その手に、僕はそっと触れた。待ってるね、と言えば、うん、と元気のいい返事がくる。これで明日もキミに会える。

 天馬に気がつかれないように、ひとりほくそ笑んだ。






 こうして絡めとって、僕から離れられないようにするよ。
End.
2012.03.07
タイトルお借りしました。
カカリア

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