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□純愛推奨論
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※京天です。剣城くん視点。デート話





 待ち合わせの時間まであと十分ほどある。今日は松風と出かける約束をしてる。たかが出かけるだけなのにやけに早く目が覚めた。準備も早々に終わって時計を見たけどあまり時間は経ってない。早く出てきたのは家にいても落ち着かなかったからだ。ちょっと早く来すぎたかと思ってたけど。


「剣城ー! こっちこっち」


 ぶんぶんと手を振っている松風を見て俺は帰りたくなった。すごく楽しそうにしてる。ただ出かけるだけなのにそこまで嬉しいものなのか?
 あまり喜ばれると期待してなかったから正直驚いてる。場所だって稲妻町内だ。遠くまで行くわけじゃない。


「おはよう」


 ああ、と短く返し、視線をそらした。松風を見るのが恥ずかしい。どきどきと胸がうるさいくらいに鳴ってる。自分に舌打ちしたい気持ちになった。


「剣城、今日はスポーツショップのあと、河川敷に行ってもいい?」

「別に。サッカーするのか」

「うん! 新しいシューズに履き慣れておきたくて」


 そうか。
 どこに出かけようと松風は松風だ。サッカーが頭から離れない。かく言う俺も似たようなものだから、俺たちらしい。


「俺、今日すっごく楽しみにしてたんだ! 剣城とどこか出かけるのはじめてで昨日寝られなかった」

「お前な……」


 子どもっぽい、と言うと松風は黙った。遠足前の小学生みたいだと思ったんだ。


「ご、ごめん」

「は……?」


 てっきり、剣城だって子どもじゃん、と返してくると思ってたから、俺はぎょっとした。謝られるなんて思ってもみなかった。


「……剣城と来られるのが嬉しくてつい」


 はしゃいじゃった、と言う松風は無理に笑っているようだった。いまにも泣きそうな顔になって顔をふせた。
 俺は息をのんだ。声を出そうとしても、あ、とかすれた声しか出ない。頭は真っ白になっていき、言葉が消えていく。
 悪かった、とつぶやく。単純な言葉しか出てこないのが、悔しい。謝ることすらろくにできないなんて。


「……行くぞ」

「えっ……つ、剣城?」

「いいからなにも言わずついて来い」


 ここで上手く言葉をかけてやれたらいいのに。そう上手くはいかず、言葉が見つからなく歯痒い。……言葉じゃなくて行動で示すしかない。松風の手をとって商店街を通り抜けた。
 もっと笑わせたいのに、どうして俺は悲しませることしかできないんだ。

 目的の場所を通りすぎたことに気がつかず、松風に声をかけられるまで俺はひたすら歩きつづけた。








 焦らず、騒がず。
End.
2012.03.07
タイトルお借りしました。
箱庭

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