いろいろ

□愛あればすなわち、
1ページ/1ページ

※サビ丸×善透





 この間の一件があって俺はサビ丸に提案してみた。休暇はまた今度になったけど、夜くらいはゆっくり休んでみたらどうか。とりあえず布団に寝るようにしろ、と。そうじゃないと働きっぱなしだ。サビ丸は渋々頷いてたが、本当にわかってるか不安だ。

 先に風呂に入り、布団のうえに寝転がってた。身体はぽかぽかとあたたかい。薄い布団でも寝転がるとそれなりに心地好い。
 かたん、と音がしたほうを見るとサビ丸が風呂から上がったようだ。髪からぽたぽたと水滴が垂れてる。なにやってんだ。早く拭かないと風邪をひく。風邪をひかれたら、また面倒だ。あいつは風邪をひいていようが、意地でもいろいろやってくるだろう。
 髪をかわかせ、と言おうとしたら、突っ立ってたサビ丸が俺のほうに来た。


「……サビ丸?」

「……」


 電気が遮られ、視界が薄暗くなった。目の前にはサビ丸の顔がある。
 俺に跨がり、じいっと見つめてくる。
 なんだ、サビ丸のやつ。風呂上がりだからか、顔が赤いのはわかる。けど、なにも言わずに近寄ってくるなんて。
 俺は起き上がり、ずるずると後ろに下がる。なんだ、いきなり。布団は用意してあるのにこっち側がよかったのか?

 サビ丸は俺を追いかけてきた。壁際まで追い詰めると、そっと頬に触れてくる。
 優しく包み込むように触ってきて、どくっと胸が鳴った。自分でも顔が赤いことがわかるほど熱を帯びてるのを感じた。
 熱のこもった視線とぶつかる。サビ丸のこんな目、はじめて見た。


「……なっ、あ……」

「よしとおさま」

「……サビ……っ……」


 甘ったるい声に、身体がわなないた。どっどっとうるさいくらいに鼓動が耳に届く。
 サビ丸の端正な顔が近づいてくる。それを目の前で見てる俺の瞳は潤みつつあった。じわりと目頭が熱くなってるのがわかる。

 混乱していた俺はどうしたらいいかわからなくて。サビ丸の頬にそっと触れた。頬はあったかい。幽霊とか幻とか、そういった類のものじゃないんだな。

 サビ丸がごくりと喉を鳴らす。徐々に顔を近づけてきた。近くで見るとまつげが長い。キリッとしててやっぱりイケメンだ。女子はこういうのが好みなんだよな。

 サビ丸……もしかして、お前は。サビ丸の頬を思いきり引っ張った。


「……いっ!」

「……夢、じゃなかった……」


 夢かと思ったけど、違ったみたいだ。サビ丸は痛みに頬をさすってるから、これは現実か……。と、思ったところで今の状態にはっとした。
 
 サビ丸との距離、およそ十五センチ。目の前にある端整な顔。あまりの近さにかあっと顔が熱くなる。どうしようもない思いに身体がわなわなと震える。男同士でこんな状況はおかしい。なにしてんだ俺は……!
 サビ丸は俺から顔を離す。痛みのあまり、目に涙をにじませてる。俺に謝罪するわけでもなく、ようやく口を開いたかと思えば、よしとおさま、と名前を呼ぶだけで。

 熱を帯びた顔を伏せ、唇を噛んだ。なんだ、なんなんだよサビ丸。なにがしたいんだ!

 痺れを切らしたらしいサビ丸が、ようやく口を開いた。可愛いです! とわけのわからない叫び声をあげ、抱き着こうとしてきた。なかば俺に突っ込んでくるかたちで。
 サビ丸のあまりの変貌に俺はぎょっとした。とっさのことだったけど、身の危険を感じた俺は、それをかわした。じと、と壁と熱いキスをかわしてるサビ丸を睨む。
 がつん、と大きな音がした。壁と対面してたサビ丸が顔を離したら、痛々しいほどに鼻が赤くなってる。
 ばっ、と俺のほうを向くとそれでもなお、熱のこもった視線を送ってくる。


「こっの……この大馬鹿! もう知らないからっ」


 そんな視線にどうしたらいいのかわからず。脱兎のごとく、部屋から出ていった。


「よっ、善透さま! お待ちください!」


 このあと、夜の街を駆け回る俺とサビ丸がいて。……つぎの日は学校だというのに、なにをしてたんだか。ただ、ひたすら逃げることに気がいっていたんだ。



『愛あればすなわち、』

 問題解決……って、そんなわけありませんでした。
End.
2012.03.18
HENCE

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ