いろいろ
□愛あればすなわち、
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※サビ丸×善透
この間の一件があって俺はサビ丸に提案してみた。休暇はまた今度になったけど、夜くらいはゆっくり休んでみたらどうか。とりあえず布団に寝るようにしろ、と。そうじゃないと働きっぱなしだ。サビ丸は渋々頷いてたが、本当にわかってるか不安だ。
先に風呂に入り、布団のうえに寝転がってた。身体はぽかぽかとあたたかい。薄い布団でも寝転がるとそれなりに心地好い。
かたん、と音がしたほうを見るとサビ丸が風呂から上がったようだ。髪からぽたぽたと水滴が垂れてる。なにやってんだ。早く拭かないと風邪をひく。風邪をひかれたら、また面倒だ。あいつは風邪をひいていようが、意地でもいろいろやってくるだろう。
髪をかわかせ、と言おうとしたら、突っ立ってたサビ丸が俺のほうに来た。
「……サビ丸?」
「……」
電気が遮られ、視界が薄暗くなった。目の前にはサビ丸の顔がある。
俺に跨がり、じいっと見つめてくる。
なんだ、サビ丸のやつ。風呂上がりだからか、顔が赤いのはわかる。けど、なにも言わずに近寄ってくるなんて。
俺は起き上がり、ずるずると後ろに下がる。なんだ、いきなり。布団は用意してあるのにこっち側がよかったのか?
サビ丸は俺を追いかけてきた。壁際まで追い詰めると、そっと頬に触れてくる。
優しく包み込むように触ってきて、どくっと胸が鳴った。自分でも顔が赤いことがわかるほど熱を帯びてるのを感じた。
熱のこもった視線とぶつかる。サビ丸のこんな目、はじめて見た。
「……なっ、あ……」
「よしとおさま」
「……サビ……っ……」
甘ったるい声に、身体がわなないた。どっどっとうるさいくらいに鼓動が耳に届く。
サビ丸の端正な顔が近づいてくる。それを目の前で見てる俺の瞳は潤みつつあった。じわりと目頭が熱くなってるのがわかる。
混乱していた俺はどうしたらいいかわからなくて。サビ丸の頬にそっと触れた。頬はあったかい。幽霊とか幻とか、そういった類のものじゃないんだな。
サビ丸がごくりと喉を鳴らす。徐々に顔を近づけてきた。近くで見るとまつげが長い。キリッとしててやっぱりイケメンだ。女子はこういうのが好みなんだよな。
サビ丸……もしかして、お前は。サビ丸の頬を思いきり引っ張った。
「……いっ!」
「……夢、じゃなかった……」
夢かと思ったけど、違ったみたいだ。サビ丸は痛みに頬をさすってるから、これは現実か……。と、思ったところで今の状態にはっとした。
サビ丸との距離、およそ十五センチ。目の前にある端整な顔。あまりの近さにかあっと顔が熱くなる。どうしようもない思いに身体がわなわなと震える。男同士でこんな状況はおかしい。なにしてんだ俺は……!
サビ丸は俺から顔を離す。痛みのあまり、目に涙をにじませてる。俺に謝罪するわけでもなく、ようやく口を開いたかと思えば、よしとおさま、と名前を呼ぶだけで。
熱を帯びた顔を伏せ、唇を噛んだ。なんだ、なんなんだよサビ丸。なにがしたいんだ!
痺れを切らしたらしいサビ丸が、ようやく口を開いた。可愛いです! とわけのわからない叫び声をあげ、抱き着こうとしてきた。なかば俺に突っ込んでくるかたちで。
サビ丸のあまりの変貌に俺はぎょっとした。とっさのことだったけど、身の危険を感じた俺は、それをかわした。じと、と壁と熱いキスをかわしてるサビ丸を睨む。
がつん、と大きな音がした。壁と対面してたサビ丸が顔を離したら、痛々しいほどに鼻が赤くなってる。
ばっ、と俺のほうを向くとそれでもなお、熱のこもった視線を送ってくる。
「こっの……この大馬鹿! もう知らないからっ」
そんな視線にどうしたらいいのかわからず。脱兎のごとく、部屋から出ていった。
「よっ、善透さま! お待ちください!」
このあと、夜の街を駆け回る俺とサビ丸がいて。……つぎの日は学校だというのに、なにをしてたんだか。ただ、ひたすら逃げることに気がいっていたんだ。
『愛あればすなわち、』
問題解決……って、そんなわけありませんでした。
End.
2012.03.18
HENCE