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□桃色の片思い、まさにそんな感じ
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 兄とのサッカーのため。サッカーをする理由であり、剣城の一番大切な気持ちだ。その気持ちにいつしか、別の気持ちが加わっていた。





 あの試合以来、剣城はサッカー部の練習に真面目に出るようになった。それを一番喜んだのは天馬だった。剣城、剣城と必要以上に声をかけ、最近では一緒に行こうと教室まで押しかけて来るようになった。
 そんな天馬に、剣城はどう接していいのかわからないでいた。天馬が自分のもとに来ることを、彼は嫌がってはいない。むしろ、心のなかでは嬉しく思うときもある。

 彼がわかりかねているのは、ただ純粋に、距離をつかめないだけだからだった。いままで友人として接する人などいなかったから。



***


 練習のあと、剣城は天馬に声をかけられた。久しぶりに天馬と一緒になった。


「珍しいね、剣城と一緒になるの」

「そうか? 別に珍しいことじゃないだろ」


 呆れたように、剣城は言った。
 いつも練習が終わったら、剣城のほうが早く帰ってしまう。だから、帰りが一緒になることはあまりなかった。
 剣城は気にしていなかったが、天馬にとって嬉しいことだったのだ。



「剣城、今日は一緒に帰ろうよ」

「……なんで」

「せっかく一緒になったんだし。あ、もしかしてお兄さんのところとか……寄ってく?」

「別に寄る予定はない」

「じゃあ決まり! ごめん、すぐ着替えるから待ってて」


 と言って、天馬はユニフォームを脱ぎはじめた。マイペースな天馬の誘いを、彼は断れなかった。頭のなかが機械になってしまったかのように、目の前の天馬のことでいっぱいになっていた。

 はあ、と剣城は盛大にため息をつく。ため息をついたのは、どうしようもない自分、さらに警戒心のない天馬のことがあってだ。


(……なに無防備になってんだ。って、なに考えてんだ俺は)


 思いとは裏腹に、天馬の着替えが気になって仕方ない剣城は、目のやり場に困った。ほかの場所に視線をやっても、天馬のほうを向こうとしてしまう。

 ならば。
 ならば、割り切って見てしまえばいい。
 一回だけなら不審に思われることはないし自分もおさまりがつくだろう、と剣城は思った。壊れかけた機械のようにいささかぎこちなく、顔を動かす。
 ちらっと天馬を盗み見ると、ドキドキしている鼓動はおさまることを忘れたかのようにさらに速くなった。どくんどくんと大きくなった鼓動は耳にまで届く。


(なんなんだよ、いったい!)


 剣城は思いきり壁を殴った。ジン、と痛みが指先から腕に伝わっていく。痛みによって落ち着きを取り戻しつつある自分に、剣城はほっとした。

 気づいた天馬が、どうしたのと驚いて目を丸くしていた。すぐ荷物まとめるからと慌てた天馬に、なんでもないと短く返した剣城は、グッと自分の手を握りしめた。


(逆効果だった……どうすりゃいいんだよ)


 募る苛立ちに、乱れる気持ちに。剣城がこの異変の名前に気づくのは、もう少し先の話。









End.
2011.12.02
タイトルお借りしました。
箱庭

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