青空文庫

□永遠のような
1ページ/1ページ

漆黒の闇に、舞い降りる白。
それを見上げる人の横顔は、何処か悲し気だった。
声を掛けるタイミングを失い、僕も少し離れた場所から、同じ空を見上げる。

羽根が舞うように軽やかな雪に、あの人は何を想っているのだろう…。

雪が頬に触れ、ひんやりとした感覚が伝わる。
目を閉じてその感覚を感じていると、ふいに温かいものに身体が包まれた。
驚いて目を開くとそこには、先程まで空を見上げていた人の、匂いと体温の中。
身長差があって僕の顔は、心臓位置くらいで、規則正しい鼓動が聞こえる。
「…どうしたの?急に」
突然の抱擁に、戸惑ってしまう。
「お前が、雪に消えてしまいそうだった」
ポツリと呟く声は、あまりに弱々しくて…。
そっと両腕を広い背中へと回し、抱き返す。
僕の存在が、伝わるように強く、強く。
「大丈夫、僕はずっと側にいます」
心地よい胸の中から顔を上げて、微笑みを送る。
「…瞬」
「何処にも行かないから」何も言わずに小さく笑って僕を見つめ返す。
それが、無言の答え。
「帰ろう、兄さん」
優しい雪に包まれて、ふたりきり。
まるで、永遠のような一瞬。




end

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ