青空文庫

□苺の記憶
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一粒手に取り口に運ぶと、瑞々しい甘さと少し遅れて微かな酸味が広がる。
「美味しい、兄さんの分も残しておかなきゃ」
自然と頬が緩み笑みが溢れた。
「瞬、どうしたんだ?」
氷河の声に、皆の視線が一斉に向けられ戸惑う。
心配するように皆に見つめてられるが、瞬には何の事か判らない。
「え?」
「お前、泣いてるじゃん」
星矢に言われ、頬に触れると確かにそこには、涙。


夕食後のデザートに出された苺を食べているだけだったのに何故、涙が溢れてくるのか瞬自身にすら思いもよらなかった。

「やだ、どうしたんだろう…」
胸が苦しくて、切なくて涙が止まらない。

困惑しつつもこれ以上、皆に泣き顔を見られたくはなかった 。
「ごめん、ちょっと部屋に戻るね」

逃げるように部屋に向かおうとする瞬に、氷河が付き添おうと席を立つのを紫龍が視線で引き留める。



ひとりになっても、込み上がる涙は止まりそうにない。
それどころか原因不明の切なさは増すばかりだった。
「僕、どうしちゃったんだろう」

途方に暮れ、そのままベッドへとうつ伏せに倒れ込む。
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