青空文庫
□はじまる、セカイ
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目の前には初冬にしては暖かな陽射しの中、ソファで眠る瞬のあどけない寝顔。
微かに笑みを浮かべている唇に、俺の目は惹き付けられて―。
それは、見えない引力を持つかの様に、思わず指を伸ばしその唇に触れてみる。
柔らかい。
もっと触れてみたくなり、顔を近付けてそっと瞬の唇に口付ける。
同じ男なのに、俺の唇にはない弾力。
体中が、痺れる感覚に軽い目眩を覚えて。
もっと、味わいたい―。
そんな感情が沸き上がる自分に戸惑い柔らかな唇を離れると、先程まで閉ざされていた瞬の瞳が驚いたように見開かれていた。
「…あ、いや・その…」
完全に硬直してしまっている瞬は、顔を赤く染めてこの状況の説明を待っている。
間近にある薄茶の瞳に映る俺は、笑える程情けない表情…。
何も言葉を見つけられず、ただ気まずい時間だけが静かに流れてゆく。
end