銀魂

□斬らせたくないと思う俺のエゴイズム
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「近藤さんが泣いてたことは内緒にしときやすぜ」
「そっ、れは助かり、ます…」


総悟の素晴らしい笑顔に
また泣きそうになる。


「なんの話だ?」


俺と総悟と同じように
血化粧したトシが
話に入ってきた。


「あー、近藤さんが…」
「わー!!! なんでもない、なんでもない!!」
「そうか? あ、近藤さん山崎が呼んでたぞ」
「んじゃ、行って来るかね」


向こうで山崎が
局長ー、と
何度も呼んでいるのに
気付かなかった。


「おー、どうした?」
「いや、この潰した組織ですけど…」


聞いている中
ちらりと、あの二人を見た。

微かに笑って話をしている。

さっきの話を総悟がしてなければ
いいな、となにかに願った。


「……て聞いてます? 局長」
「あ、あぁ。親玉がいるって話だろ? 聞いてたよ」
「じゃあ、俺まだやることあるんで失礼します」


頭を下げて
この場を去った山崎を見送って
二人の元に戻った。


「…なーんの話?」
「近藤さんには内緒でさぁ」
「なんだよ、仲間外れかよ。って、総悟。後始末は俺らがすっから一番隊引き上げていいぞ」
「わかりやした。…んじゃ、お先に失礼しやす」


会釈程度に頭を下げ
数メートル進んだ後
後ろを振り返り大声で
トシの名を叫んだ。


「土方さん!! さっきの話は他言無用ですぜ!!」
「あぁ!! わかってる!」
「……ねー、なんの話?」
「総悟が言ったろ、他言無用の秘密の話だって。……ところで山崎から聞いたか?」


柔らかいムードから一転
仕事の話になり
テンションが一気に下がった。


「…おぅ。親玉がいるって話だろ。誰から聞いたんだ?」
「生き残っていた残党に口割らせた」
「誰が?」
「俺が」
「その残党は?」
「殺した」
「……誰が?」
「…あんたの隣にいて進行形で会話してる奴」
「そうか……」


あぁ、まただ
と後悔した。

また殺させてしまった。

また手を血に染めさせてしまった。

もう俺達は人の血を吸ってしか
生きていけれない
人種となってしまった。


「……あんたが」
「へっ?」


いきなり掛かった声に
驚きで素っ頓狂な声が出た。


「なに考えてるか手に取るようにわかるけど、その考えは、もう……捨てろ」
「な、んで…」
「あ、いや…そんなことが言いてぇ訳じゃなくて…」


しどろもどろに言葉を紡ぐ
トシが珍しかった。


「俺達は、この役職に就いたこと後悔なんてしてねぇ。だから、あんたも悔やむな」


口先はぶっきらぼうで
なのに瞳、が
真剣で
目、が離せなかった。


「俺、な、トシ。手が離せなかったんだ。お前の手も、総悟の手も。お前らの腕前なら幕府お抱えの剣道の師範や、柳生にも入れたはずなんだ。なのに、人斬りの世界に入れて…。武州を出る前からわかってたのに両手が冷たくなることが嫌だったんだ」


黙って聞いていたトシが
煙草を一本取り出し
火を点けた。

口に含んだ煙を
白んできた空に吐き出した。

顔が上を向いたまま
言葉が返ってきた。


「それ、きっと無理だろ」
「いやいや。お前らなら今からでも引き抜きがあるだろ。そしたら真選組なんて放っていいからな」
「いや、だからそれが無理だって」
「…はぁ?」


トシが言っていることが
イマイチわからない。


「俺達が真選組を放って引き抜きに大人しく従うと思うか?」
「思わねぇな」
「だろ? それに…」


張り詰めていた空気が
一瞬だけ和らいだ。

それからトシの言葉が
発せられるのを待つ。


「近藤さんが手を離しても俺達は離す気ねぇから、だから安心して手ぇ離せ」


その言葉に面食らった。

トシや総悟の本心が
少しだけわかって
心が軽くなった。

トシの言葉で
手を離さないでいいと
知って安堵したのは
俺だけの秘密。


「んだよ、それ。……いつになったら親離れしてくれるのかねぇ〜」
「あんたが死んだ後くらいかな?」
「んじゃ、それまで手ぇ離さずに面倒見てくれよ、副長殿?」
「嫌っちゅうほど面倒見てやるから、笑顔であの世に逝け、局長殿」




(俺が手を離すのは死んだ後)





End








要するに近藤は
土方と沖田が大好きで
みんな、みんな手を離す気がない
って話ですよ。
この作品、今までの小説の中で
一番、文章に頭を悩ませました。
文章追い付かないのに
妄説だけが先走るんで
一番、困った話です。



101022



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