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□彼を確かに好きだった
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あれから二年が過ぎ、あなたに負けた後の誠凛時代の話。






「じゃ、行こっか」

「…どこに?」

「どこって展望台がある、あの山」


相田が指差したのは、それほど高くない山。


「何しに?」

「何って今日、七夕でしょ? だから短冊吊しに。 大丈夫! 笹はもう用意してあるから!」

「いやいや、そういう問題じゃないからね?!」

「何よ! 決めたら即行動でしょ?!」

「それ監督だけ!!」

「つべこべ言わず行く!!」

「はい!!」


相田の一言で部活がなしになり、すぐそこにある山に行くことになった。


相田の言葉に連なる桃井の言葉。


『晴れてよかったですねー。 どうせなら星が綺麗に見える所行きません?』


ヤバイ、直感的に思った。

あの過去が今にフラッシュバックしている。


「っ!」

「黒子? どうした? 顔色悪いぞ」

「な、でもありません」


いきなりの膨大な記憶のフラッシュバックに身体が後ろ向きに倒れそうになる。

横にいた火神がいなければ完全に倒れていた。

それだけ自分の中でショックだった。

昔が恋しいと思い、昔に戻りたいと願ったのが。


「皆、短冊書けた? 書けたなら行くわよ」


相田の声に我に返り、短冊とペンをポケットに突っ込んだ。

やる気ない返事を疎らにしてバッシュを脱いで練習着のまま外に出る。

まだ風が冷たいが寒いというほどではない。


「で、七夕ってなんスか?」

「やっぱり言ったわね。 このバカ神!」

「へっへー、俺知ってるよ。 年に一度、彦星と織姫が会えるのが七夕でしょ?」

「なんで一度切りなんスか?」

「そっ、れは……さぁ?」


小金井が自慢げに言った話も出鼻をくじかれたようで。

逃げるように目線を水戸部へ流した。


「…琴座のベガ…織姫は天帝の娘であり機織りの上手い働き者で、わし座のアルタイル…つまり彦星も働き者で二人は愛しあっていました。 だから天帝は二人の結婚を認め、二人は幸せな夫婦生活を送りましたが仕事を一切しなくなり、それに天帝は怒り、二人を天の川を隔てて引き離しました。 ですが年に一度、7月7日だけ会うことを許し鵲が架ける橋で、やっと二人は会えることが出来ました。 けれど雨が降れば天の川の水かさが増し、織姫は渡ることが出来ず彦星も彼女に会うことが出来ないことから、この日の雨は織り姫と彦星が流す涙に因み催涙雨と呼ばれ、星の逢引なので七夕には星合という別名もあります」

「……なんとなく、わかった気がする。 けど…」


ここは青峰と違うな、と思った。

当たり前なのに。

青峰と火神は全然違う人なのに、どこか似ていると感じる。


「けど?」

「織姫と彦星は馬鹿ってことだ」

『織姫と彦星は馬鹿ってことだ』


また被る。

そして僕は、こういう。


「火神君に言われると説話とはいえ二人に同情します」

「あ゙?! んだよ。 俺、馬鹿宣言」

「だって馬鹿でしょう? 僕は本当のことしか言いません。 …で、なんで馬鹿なんです?」

「年に一度だろうが、雨で水かさが増そうが会いたくなったら逢いに行きゃいいんだよ。 それする前に出来ないと思い込んでよ、ただ単に諦めてただけだろ。 やってから諦めりゃいいのに、やる前から諦めるんなんて、腹が立つ。 だからだよ」


目頭が熱くなる。

どうしてここまで一緒なのか。

まるで昔に返ったようで心が揺れ動く。

ふいに火神が僕の背まで屈み耳打ちする。


「…なんで泣いてんだよ?」

「え……?」


指で目を擦ると確かに流れている涙。

止めようとする度に涙が溢れる。


「あー、もう!! 俺の後ろ歩け」


横にいた火神が僕の前に立ち、皆から隠してくれる。

僕の能力を使えば訳無いのだが。

ここは甘えた。

火神の背中が青峰の背中と被り、涙で背中がぼやけた。

裾を少しだけ掴み、歩幅を合わせてくれる優しさに少しだけ涙が涸れた。






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