スカイラフター

□第3話
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 昼食を食べ終えたケイトは、客室でひたすらペンを持つ手を動かしていた。白い掌ぐらいの大きさの紙に描かれるのは、ケイトと共にこの世界へと落ちたと思われる2人の人物の顔だった。
 ケイトの記憶力だけで描かれた2人の似顔絵は、まさにシズルとアキラ生き写しのような物だった。付き合いの浅いアキラを描くのは、少々不安に思うこともあったが、恐らくそのままそっくりであろう自身の腕に安堵の息を吐いた。
 「ケイトさん、準備はよろしいですか?」
 ノックと共にドア越しに、イヴァの声がかけられてケイトは紙を手に席を立った。
 「あぁ、待たせたな」
 ドアを開くと、顔をほころばせたイヴァ。恐らく、ケイトの口から発せられる懐かしい母国の言葉に嬉しさを隠しきれないのだろう。
 「それでは、行きましょうか」
 彼女の服と同じ色と素材でできた布を、頭からかぶりイヴァはケイトを連れて裏口へ行く。一枚布を被った彼女は、テレビでよく見るインド人その物だった。しかし、インド人とは全く違うサラサという民族に属しているのだから、どこか不思議な思いを感じた。
 「それでは、気をつけて行ってきてくださいね」
 ゴードンの笑みを携えた言葉と、小さなキックリがパタパタとやってくる。
 「ケイトさん、イヴァさん。行ってらっしゃい」
 「あぁ」
 「イッテキマス」
 2人が教会から出たのは、ケイトの見繕う服を手に入れるためだ。彼の今の服装は、あちらの世界から来ていた、白のポロシャツとズボンだ。そこまでこの国では違和感はないが、素材等などこの国にはあまりないものも含まれている。これでは目立ってしまうと考え、早いうちに服を一式買おうと考えたのだ。
 それを提案したのは、昼食前のリレイドとの出来事の前に、ケイトが接触したと聞いたキックリだ。リレイドに少なからず目をつけられたケイトが、これ以上悪目立ちをしないようにという、キックリの配慮である。
 そこで、キックリよりも比較的目立つことのないイヴァと共に、ゴードンが町に行きなさいと言ったのが始まりである。本来ならばゴードンが行けば一番安全なのだが、教会を空けるわけにはいかないし、老体である彼に負担はかけられないと言う3人の申し出があったため止めにした。
 2人で町へと続く道を歩く。教会は森のはずれにあるので、森を抜けるのに時間はかからなかった。すでに眼前に見え始めた町の入り口の門には知らない文字が綴られていた。恐らく、この町の名前である“フィリク”の文字が書かれているのだろう。
 町の中は活気にあふれていた。ガヤガヤと人々の忙しない働きぶりと生き生きといた表情に、ケイトは思わずあちらこちらに目を移させた。
 人通りの多さに、イヴァを常に視界に入れなくてははぐれてしまう。しかし、この市場はとても陽気なもので珍しい物を売っているところも多く、思わず歩幅がせまくなる。
 「服を買って、着替えたらいろいろ見て回りましょうね」
 「あぁ」
 「服屋さんは、こちらです」
 すれ違う人々は、皆金色などの明るい髪色をしていた。それにそろって顔の彫りが深く、皆一様に肌の色は白い。ゴードンもそうだったが、この町にいるのは見る限り全員ヨーロッパ系統の人間のようだ。
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