スカイラフター

□第2話
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 「地名持ちというのは、その土地の所有者という意味です」
 キックリは先程の聞き覚えのない言葉の意味を、丁寧に教えてくれた。
 道中の獣道はだんだんと慣らされた道へと変わっていき、現在は立ち並ぶ木々に挟まれた、細い道を歩いていた。
 「たとえば、このディティーラ国の国王様は、お名前の後にディティーラが入ります。国王様のお名前はビヴァルスなので、ビヴァルス=ディティーラですね。国だけではなく、領主様もそうやって土地の名前を名乗ります。このウロラの森はフィリクという町の近くにあるんですが、そこの領主様はケルン=フィリクと名乗ります」
 「俺に苗字があったから、俺が貴族だと思ったのか」
 そういうことです、と言ったキックリは、続けて言う。
 「土地の所有者のご家族も、もちろんその土地の名を名乗ります。それから、その所有者に忠誠を誓っていらっしゃる方も、同じように名乗ります。その場合は主従の違いが分かるように、地名の前に階級やその職種によって違う名前が入るんです。たとえば、その方の階級が大将だったら、名前の後にアドミラルが入ります」
 中将はエンテナント、少将はマイジョー、大佐はオーベスト。次々に出てくる単語を、ケイトは頭の中に入れる。今後、何かあるか分からない。わずかな情報でもケイトは必要だと思い、キックリの言葉に聞き入った。
 「あ、すみません。こんなにたくさん言っては、混乱してしまいますよね」
 申し訳なさそうに謝罪するキックリに、ケイトは構わないと答えた。
 「一応、覚えられるものは覚えておきたい。……だが、少し急すぎたな。また教えてくれ」
 「はい」
 少し嬉しそうにはにかむキックリに、こちらも頬が緩んだ。
 すると、道が開いて前方に白い建物が見えてきた。
 「ここが、僕の暮らしてる教会です。ケイトさんは、ここで待っていてください。先に僕が神父様に事情を話してきます」
 そう言って、キックリは足早に教会の中へ入って行った。
 森の中にそびえ立つ教会の白さは、新緑の木々の中で美しく際立っていた。テレビや映画でよく見るデザインの、何の変哲もない教会だったが、初めて見たということとその汚れのない白さに魅入った。
 暫く教会のあちこちに目を動かしていると、キックリが両開きの扉から顔をだした。その後ろからは、齢70ぐらいの老人が姿を現した。
 「神父様、こちらがケイトさんです」
 老人は顔の笑い皺の彫りを深めて、柔らかい笑みを作った。曲げることなくしゃんと背筋を伸ばし、小奇麗な白を基準としたシンプルな服を着こんでいる。
 「はじめまして、ケイト君。ゴードンと申します」
 「……はじめまして」
 ゴードンは柔らかな笑みをそのままに、どうぞ、とケイトを教会へ招き入れる。
 中の作りは、想像していたものとほぼ変わらなかった。礼拝堂を過ぎ、ケイトは奥の部屋、キックリとゴードンが生活しているスペースへと連れられた。
 小さなキッチンとテーブルが配置されており、ここだけ見れば教会とは思えないだろう。
 椅子をすすめられ、ゴードンと向かい合わせに、そして隣にはキックリが腰を下ろした。
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