スカイラフター

□間章
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 三人を飲み込んだ“穴”は、音もなく消えた。
 後に残ったのは、まるで穴などなかったかのような、何の変哲もない公園の地面だけだ。
 恋人を失った男は、膝立ちの状態のまま、暗い地面を見つめた。
 「……しず、る?」
 乾ききった喉から発せられたのは、目の前で消えた恋人の名。
 呆然と呟いた拓真は、もう一度彼女の名前を呼んだ。何度も、何度も。
 「静流? 静流……静流、静流。静流、静流、静流静流静流静流ッッ!!」
 弾かれたように拓真は地面へと伏せる。
 恋人を失った喪失感を身に感じながら、拓真は一心不乱に固く乾いた地面を掘る。
 「静流! 静流! 静流!!」
 何度も名前を呼び、土を掻きわけ、彼女の姿を探した。
 爪に土が詰まる。小石で肌が傷ついた。だが、そんなことはどうでもいい。
 あの“穴”は異質なものだった。見た時は 底知れぬ闇が奥まで続いているだろうと思った。だが、この地面にも同じ深さがあるのか。
 答えは分かっている。こんな冷たい地面の中に、静流も、ましてや慧斗やあの少年がいるなどあり得ないだろう。
 もう、ここには静流はいないと、拓真は理解していた。
 だが、それでも手は止めない。
 もしかしたら、もしかしたらこの中にいるかも。いつか、彼女の白い手が見えてきて、また顔が見えるかも。
 そんな確証の無い思いを胸に、拓真は手を止めない。
 だが、そんな必死な拓真の想いに、あっさりと現実を突きつける存在が、彼の背後にいた。
 「そこに、三人はいないよー」
 間延びした緊張感の欠片もない、ふざけた声に、拓真がぴたりと手を止めた。 
 ゆっくりと振り向くと、そこには静流達を蹴り飛ばし、“穴”へ入れた少女が、ニコニコと屈託のない笑みを浮かべていた。
 瞬間、拓真の怒りが爆発した。
 自分の胸にも届かない少女の胸倉をつかみ、激しく揺さぶった。
 「何処だ! 静流は何処にいる!!」
 子供だろうが、拓真の力には手加減など感じない。
 がくがくと視界が揺れているのにも関わらず、少女はさもおかしそうに笑うだけだ。
 「だーかーらー、ここにはいないってぇ」
 「そんなはずはない!! ちゃんと言え!」
 「だから、言ってるでしょー? ここにはいないよ。君に、彼女さんは見つけらんないよ」
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