L×S

□初めましてドクター
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季節は秋。

所はトウキョウ・枢木総合病院。
その玄関口に、黒塗りの高級車が停まった。
窓も黒い保護テープで隠され、中の様子を伺い知る事は出来ない。
しばらくすると、助手席から出てきた二十代後半の美男子が、後ろの席の扉を開けた。

出てきたのは、美女にもひけを取らない黒髪の美少年だった。
黒い詰め襟の学生服を着ている。大人っぽく見えたが、どうやらまだ学生、高校生のようだ。

「ルルーシュ様、病室は901号室との事です。」
「そうか、分かった。ジェレミア、手間をかけさせたな。もう通常勤務に戻っていいぞ。」

華がほころぶように微笑みを浮かべたルルーシュに、ジェレミアと呼ばれた男は、
「いえ、お母上様からルルーシュ様の身の回りのお世話を仰せつかっております故。無事検査が終わられるまで、お供させていただきます。」
と丁寧な物言いをされ、ルルーシュは
「母さんが?全く、どうせジェレミアがいたら仕事をさぼれないからだな。天真爛漫も程々にしてもらわなくては、あれでも正室なのだから。」
と、困ったように苦笑した。

ジェレミアが検査入院の手続きを済ませている間、ルルーシュは待合室の椅子に座り、何気なく携帯を見ていた。
受信メールが数件入っていて、その一つ、同じ生徒会のリウ"ァルだった。

『検査入院終わったら、また賭けチェス頼むぜ☆まぁ万一何かあっても、骨は拾ってやるぜ!親友☆!』

と、茶目っ気たっぷりなメール内容が書かれていた。
全く、リウ"ァルは…と悪友に対して呆れながらも少し楽しそうに微笑するルルーシュに、受付への申込を終えたジェレミアが声をかけた。

ルルーシュはその後、最上階の個室に通された。
個室には、バスに手洗い、入院患者用の介護ベッドにソファベッド、そして和室までついている豪華さ。

「…フー、別に大部屋でも良かったんだがな。」

と、必要以上に豪華な病室に対して、ため息をつくルルーシュだったが、自分がどのような立場の人間であるかを理解している彼は、それ以上の不満は喉の奥へと飲み込んだ。

「ルルーシュ様、お着替えを。じきにドクターが診察にいらっしゃいますので。」

ジェレミアが用意していたキャリーボックスから取り出した白いシルクの寝間着と黒いガウンに着替えると同時に、ルルーシュの病室に看護師が入って来て、

「ルルーシュ様、お着替えがお済みになられましたら、もうしばしお待ち下さいませ。じきに主治医が参りますので。」

と恭しく対応してきた。



ルルーシュが、看護師に対して笑顔で労いの言葉をかけていた同時期。9階のナーススティションでは、9階のビップ患者担当のナースの婦長が、一人の男性医者にクドクドと注意事項を述べていた。

「いいですか?坊っちゃん、じゃなかった。枢木先生。今回貴方が担当される患者さんは、それはビップで大事な患者さんです。貴方がちょっとでも粗そうをしたら、病院全体にしわ寄せがかかって、最悪病院が潰れる事態にだってなりかねないということを常に念頭に起き〜ウンタラカンタラ〜」

もう何十分こうしてナーススティションの床に正座させられているのだろうと坊っちゃん、もとい、枢木先生と呼ばれた医者は眠気と闘いながら考えていた。

この男性の医者。
名を『枢木スザク』といい、御歳27歳になり、この病院の跡取り息子でもある。
おっちょこちょいな所もあるが、医者としてはかなりの腕の持ち主なのだが。
幼い頃から親しんでいるこの婦長さんには頭があがらず、今でも坊っちゃん扱いで、事あればこうして小言や説教をしてくるのだ。
だが、どうしても眠気に襲われるからか、最後まで聞けたためしはない。
ほら、今だって…

「…グー…」
「?…枢木先生っ!!!!」

婦長さんの怒鳴り声に流石に目を覚ましたスザクは、「わっわっかりましたぁ〜!!」と、慌ててナーススティションを走りさった。

「枢木先生!!…と本当に何かやらかさなきゃいいけど…」

フーとため息をつく婦長さんのまわりでは他の看護師達が思い思いに話を始めた。

「婦長さん、枢木先生の事そんなに言わなくても大丈夫ですよね?確かにちょっとおっちょこちょいなとこあるけど、医者としては最近威厳もついてきましたし。」
「小さな頃から知っているからね、何かと心配なのよ。それにほら、901号室の患者さんがあれだから…」
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