S room

□いっそこの無力な腕を切り落としたい(スザルル)
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一年前の今日、この腕で君をほふった。



君がいなくなってから数ヵ月は、毎日のように君を刺す夢を見ては、飛び起きて吐いた。
涙の代わりに胃液が止めどなく流れ出て、酸っぱい味が口腔だけでなく目も刺激したから、まだ夜中だというのに目が醒めて眠れなくなる。



彼をほふった日に俺は、俺が一人でひっそりと作った彼の墓の前で突っ伏していた。

(いっそ、誰か…俺を…)

遺体はおろか墓石もソトバすらたてられないから、いつか、幼い頃二人でイニシャルを刻んだ古い桜の樹の下に古い指輪を埋めた。
そういえば、買ってあげたけど、一度もはめてもらえなかったなぁ。
それが不満だったけど、ずっとネックレスにしてもってくれていたのに気付いたのは君が死んでから…。
俺はいつも、亡くしてから大事なモノに気づく…愚か者だ。
 この指輪は今は彼の代わりにこの樹の下で、時々来ては弱音を吐く俺を迎えてくれる。
今日もひとしきりうなだれて、君がいない平和な世界に絶望すると、樹の根元に寝転んだ。
(このまま、眠るように消えてしまえたらいいのに…)
疲れきった瞳でふと自分の左手の先に目線が行った。

新芽が出ている。
ちょうど、指輪を埋めた所から出た芽に触れようとすると嫌がるように俺の指をその棘で引っかいた。

まるで怒られたみたいだ。
いつまでも後ろ向きな俺を叱咤するように、君が現れてくれたようだった。
途端、今まで出なかった泪がとめどなく流れ出て、止まらなくなった。
ボロボロと流れる泪は、頬や顎を伝わって名も分からない新芽にこぼれ落ちた。

あぁ…俺は、生きなきゃいけない。
いつか、君ともう一度出会うために…。
心配しないで…俺は、生きるから。

もう一度君に、巡り逢うために…。
その為なら、俺は…。
どんな試練をも越えてゆけるから…。



あれから、あまり夢にうなされる事がなくなり、あんなに遠く感じていた彼の存在をとても近くに感じるようにさえなった。
まるで、別々だった二人が拒絶反応をしめしながらも一つに溶けて行くようにいつの間にか俺達は一つになって行ったようだ。

二つの存在、ルルーシュとスザクが一つの存在、『ゼロ』になって行ったのかもしれない。

あれからずいぶん経った…あの新芽はどうなったのだろう。


公務中、ゼロの執務室の机で眠るスザクのまわりにはいつの間にか開かれた窓から風に舞って真っ赤な花弁がヒラヒラと舞い落ちた。

花弁がスザクの頭を撫でるように舞い落ちて、それによってスザクは眠りから覚めた。

「…ルルーシュ…?」


目覚めたスザクの回りには、無数の花弁が散らばっていた。

「これ…」

一掴み、花びらを掴みとると、スザクはフッと微笑んだ。

「…きっと、薔薇畑からのお裾分けだね…」


今年は、逢いに行ってもいいかな?
きっと優しい香りで、一面の薔薇畑が俺を迎えてくれるだろう…。
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