kiriban room
□いつか離れる日が来ても…
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人通りの多い商店街に、公務の帰りに立ち寄るのが日課になって半年。
「今日はお魚安いなぁ。ルルーシュにムニエル作ってもらおう。
おばさぁんっ」
とスザクが魚屋の中年の女将に声をかけようとした時、ギロリと女将ににらまれ―
「すみません、お姉さん…」
ビクビクと訂正するスザクに女将は、「まいど〜何匹?」と朗らかに聞いてくる。
スザクは二匹魚を買うと、また商店街の中を歩きだした。と、スザクの携帯のバイブ音が振動する。
「あ、ルルーシュだ。゛ピッ゛はい、もしもし?」
『あぁ、スザク。公務は終わったのか?悪いが白身魚を二匹買ってきてくれ。』
まぁ、なんという偶然。
「今白身魚二匹買ったんだよ〜、ムニエルしてよ。」
『なんだ、奇遇だな。今日はムニエルにしようと思っていたんだ。
お前、今学園前の商店街にいるんだろ?じゃぁついでにスーパーのヤマト・キラで醤油買って来てくれ。特売のだぞ、高いのは買うな、あと濃い口だぞ。』
ルルーシュのマシンガントークにスザクは、はいはいと相づちをうった。
「もぉ、そんなに言わなくても分かってるよ。OK、待ってて、30分位で帰るから。」
『あぁ、頼んだぞ。゛ピッ゛』
用件だけ伝えると、ルルーシュは携帯をなんの惜しげもなく切った。
スザクは少し進んだ行きつけのスーパーに入り、言われた通りに醤油を買った。
ちゃんと濃い口かどうかも確認して。
お買い物袋の保冷バックには、魚屋のお姉さんがくれた保冷材と魚と醤油が入っている。
スザクはそれを見ながら、微笑んだ。
「(あのゼロレクイエムから3年。最初の計画では、不老不死のルルーシュは1週間で目覚めるはずだった。
でも…実際ルルーシュが目覚めたのは10ヶ月前。
CCは、まだコードが定着しきれていないせいだと言ったけど、僕は…)」
本当に君が死んでしまったのではないかと、生きた心地がしなかった。
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※このお話は、シャルルからコードを無意識に受け継いだルルーシュが、体が再生するであろう事を自覚してスザク(ゼロ)と共にゼロレクイエムを行なった事になっています。
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本当は、君は目覚めたくなくて、植物状態でいる事を望んでいるんじゃないかと、思ってしまった。
結局、ルルーシュは生き続けるという罰を背負う事になった。
スザクはトボトボとアッシュフォード学園前についた。
今、ルルーシュはこの学園のクラブハウスで、以前のように暮らしている。ミレイ会長の計らいで。
都会で、正体を隠しながらの生活は、彼に色々な負担をかけているだろう。
本当は最初の計画では、どこか人気のない田舎にCCと移るはずだった。
きっと、予定通り彼がゼロレクイエム後すぐに目覚めていたならば、僕も納得して彼を見送っただろう。
だけど…目覚める彼を待って、一緒に過ごした時間が長すぎた。
彼に、さらに執着を持つのは容易で――
「(本当は、不死となった彼をこんな所で生活させるのは、良くない。
良くないって分かっているけど…)」
もう、離れたくない―――
「ただいま〜。」
帰って来たクラブハウス。
僕は台所に向かう。
「おかえり、スザク。今日はどうだった?」
ルルーシュはスザクが帰ると必ず、おかえりと言ってその日の報告を聞いてくる。
「今日はほとんど事件らしい事はなかったよ。共和制反対派も、最近はおとなしくて――」
ただ、何気ない会話。だけど、それが嬉しくて、同時に胸が苦しくなる。
ルルーシュは不老不死。
いつかまた、離れなければならない時が来る。
スザクの、自分の死という別れが―――
「どうした?スザク。」
スザクは台所で料理するルルーシュの背中に抱きついた。
「う〜ん、ちょっと…充電。」
「ハハ、携帯か?」
スリスリと彼の背中に頬づりをする。暖かい、温もりがあるのに、
「(死なないなんて、信じられない。)」
スザクがなかなか離れないのに、ルルーシュは料理の邪魔だとスザクを離そうとする。
「こら、スザク。火を使っているんだ、危ないだろ。」
言われてスザクはイヤイヤとルルーシュの首筋にさらにすりついた。
「ルルーシュ、好き…」
「俺も、愛してるよ。」
にっこり微笑むルルーシュに、スザクはキスをした。
「俺がおじさんになっても、愛してるって言ってくれる?」
「当たり前だろ?」
でもスザクが歳をとり、衰えた時にも、ルルーシュは18歳のまま。
「なんだ、信じてないのか?じゃぁ約束、スザクがいくつになっても、ずっと愛してる。永遠に―」
それは、スザクの命がつきた後も続く、彼の進まぬ時を言っているのか。そうなら、その言葉を誓わせるのは、酷というもの…。
だけど、ルルーシュは意気揚々と誓ってしまうのだ。
「愛してるよ―――」
優しく撫でられた頭が、フワフワと暖かくなる。