ドM症候群Book

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「れーんーじー?」
「…なんだ、精市か。どうした?」



教室でデータ整理をしていると、後ろからよく知った声が俺の名前を呼ぶ。
声からして、笑顔の確率87%。



「何、つまんなそうな顔してるんだ?」
「元々こういう顔だ。」



そう言うと、精市は軽く溜め息を着いた。
呆れた、という彼の癖だ。



「嘘だね。朱鷺原と居るときはもっと楽しそうだったけど?」
「…ヤツの話はするな。虫酸が走る。」



名前を聞いただけで、頭に顔が浮かぶ。
ふざけるな。
いつ俺がアレと一緒にいて楽しそうにしたんだ。



「そうやって、一年、二年、今年で三年目だ。ホントは気付いてるだろ。」
「…何のことだ。」
「好きなんだろ、朱鷺原のことが。今は前よりもっと好きになってる。違うかい?」
「…俺は嫌いだ。」



嫌いだ。
好きだなんて考えたこともない。
一年の時からずっと……
俺はアイツが嫌いだった。
はじめて会ったのは、一年の時の廊下だった。
バタバタと騒々しく走り、一直線に俺の方へ向かってくる。
案の定ぶつかり、彼女は『ごめんなさーい』と叫びながら走っていった。
後から知った。彼女は朱鷺原若菜と言うのだと。
毎回毎回、すれ違うたび目で追ってしまう。
何故だろう、きっとデータからして俺は彼女が嫌いなのだろう。
そう、結論付けた。



「三年間も気にしてた人に告白されて、なんで断るかなぁ。」
「気にしていたのは嫌いだからだ。」
「嫌いなのに、どうして三年間も目で追えるのかな。尊敬するよ。」



さっきよりも明るく楽しそうな声と共に、とびきりの笑顔が視界に入る。
いつものような微笑ではなく、子供のような満面の笑顔だ。
精市がこの笑顔をするのは決まってその後に大きな変化が起こる前触れなのだ。



「…なにが言いたい。」
「別に?じゃぁね。」
「…。」



精市はそれだけ言って、教室を出ていった。
俺も同じくらいに椅子を引き、教室を出る準備をした。

教室を出た幸村は軽くスキップしていた。
さっきまでいた教室から聞こえる椅子の音を聞き、足を止めニコッと笑った。



「……フフフ、嫌よ嫌よもなんとやら…ってね。」



幸村の呟きは暖かい風と共に誰の耳に入ることなく、消えていった。








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