ドM症候群Book
□14.5
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「って、朱鷺原先輩…どこ行ったんだろ」
劇が終わり、みんなで舞台に上って挨拶をしなきゃいけない。
なのに、先輩はどこいったんだ…。
ネズミの着ぐるみを着たまま、体育館付近を見てまわる。
ふと、裏で女の話し声がした。
「…そうそう、…いや、楽勝じゃん。」
(朱鷺原…先輩…?)
いや、違う。
先輩の声じゃない。
でもどこかで…
「…へ?切原?……ないない!!!ありえないしー!!あたしが好きなのは、柳先輩だって言ってるじゃん!」
コソ…と覗いてみると、そこにはシンデレラがいた。
まだ装飾品を何も外してなくて、そのまんまお姫様に見える。
西村…なにやってんだ…?
しかも雰囲気がいつもと違う。
「……そんでさ、邪魔なんだよね、朱鷺原っていう先輩が。」
「……────!?」
嘘だろ、何だよ…それ…。
「西村っ!!」
「あ………き、切原くん、どうしたの?」
「どうしたじゃねぇよ!!!……今の話………何だよ。」
西村の無理な作り笑いが段々となくなっていく。
真顔になった彼女は静かに言った。
「…聞いてたの?」
「聞こえたんだよ!お前、ずっと騙してたのか!」
「別に?そんなつもりはないけど。」
ふんっと顔を背ける仕草にイラっときた。
グッと右手を握り締めて、睨みつけた。
「テメェ、朱鷺原先輩に何かしたら…ぶっとば……「切原。」
「?!」
俺の名前を呼んで、こちらにやってくる西村。
きっと、俺が今殴っても驚きもしないような雰囲気だ。
こういうのを、肝が据わっているというのだろうか。
「私に協力してみない?」
「はぁ?!何言って…」
「あんた、朱鷺原先輩のこと好きなんでしょ?」
「………!!」
ズバリいい当てられたのに驚いて、言葉につまる。
「あんたは朱鷺原先輩が好きで、あたしは柳先輩が好き。好都合じゃない。二人を引き離すには。」
「引き離すって…そんなこと…!!」
「どんなことをしても、好きな人を自分のモノにしようとか思わないの?」
「……っるせぇ!!!!」
そのまま、走ってその場から離れた。
今思えば、走って逃げたのは少しでもその話に共感したからだと思う。
出来るなら、先輩が俺を好きになってくれるのが一番だ。
……でも、それでも、ダメな時は……と、西村と同じ考えを少しでも持っていた自分に嫌気がさした。
「俺の馬鹿っ!!!!」
そう言って、壁を思いっきり叩いた。
かなわないとわかっても。
(俺は、俺は先輩のことが…──)