テニスの王子様 Book

□柳蓮二
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「…何をしている。」




振り向かなくても分かる。
私の後ろにいるのは、紛れもなく私の想い人。




「ミョウジ?」

「…何でも、ない。」




彼の声は優しくて、夕焼けのオレンジに溶け込むようだった。
私の声はというと、震えていて泣いているのがすぐ分かるほどだ。




「何でもないのに、泣くヤツがあるか。」

「だって……好きな人に…彼女がいたの。」




そう、あなたに彼女がいた。
何にも聞いたことがなかった。
勿論本人からの報告もない(まぁ、する義務はないのだけれど)
噂さえも。




「そうか、いつ知ったんだ?」

「昨日、買い物してる時に一緒に歩いてた。」




昨日久しぶりに友達と買い物に言ったらすぐにこれだ。
もう買い物なんか行きたくなくなる。
柳は近くの壁にもたれた。
教室には誰もいない。





「…本人から彼女と、言われたのか?」

「ううん…。だから、ヤなの。」




分からない、という顔をしている。
今までの3年間、一緒にたくさん話して、たくさん笑って、悩んできたつもりだ。
勿論相談もしたし、愚痴ったりもしてきた。


なのに、私の知らない事があった。
ただの自惚れに過ぎないけど、私が一番柳を知っていると思っていた。
だから、嫌だった…。
彼女がいた事じゃなく、彼女がいた事を言ってくれない事が。




「結構いい感じだと思ってたのに…何もいってくれなかったから。」

「そうか………」

「それに彼女さん、年上っぽかったからなぁ…」




勝ち目はないよな〜と自嘲気味に笑う。
夕焼けに染まった教室には二人だけだったが、外から沢山の部活の声が聞こえる。



…ん?



……部活の……声…?!





「………っ柳!部活は?!」




忘れてたいたが、柳はテニス部じゃないか。
なぜナチュラルにここに溶け込んでいるんだ。




「あぁ、忘れ物をしただけだこれから戻る。」

「あ、そっか…頑張って。」




柳が何を忘れたのかは分からないが、涙を拭いてから、教室から出ようとする柳に手を振った。
もう、柳を想うのはやめないと。
彼女さんに……いや、柳に迷惑がかかってしまう。


………本当に、諦められるのだろうか。
心配になって、また涙が零れそうになる。
柳は後ろ向き気味に私に言った。




「じゃあ、俺は行く。気をつけて帰れ」

「うん…」




柳は数歩進んでから、また戻ってきた。
また何か忘れたのかな?
そう思うよりさきに、彼の口が動いた。




「因みに、」

「ん?」

「俺は昨日、姉さんの買い物に付き合わされていた。じゃあな。」

「やな…」




お姉さん──……居たんだ──






敵わない相手
(データマンに隠し事は無理だね)






 
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