テニスの王子様 Book

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ゴロゴロとなる音よりも大きいであろう叫び声が生徒会室に響き渡った。
それと同時に"何か"にしがみついた。




「ミョウジ。…ミョウジ、落ち着け。」




何故か頭の上から柳の声が聞こえる。
そしてしがみついたものが、何故か暖かい…?
恐る恐る目を開け、顔を上げる…。
そこには少し焦った柳の顔。




「…うぇ…?…あ、あーー!柳っ!ご、ごめん!」




大袈裟に手を上に上げ、数歩下がった。
ま、ま、ま、まさか、しがみついたのが柳だったなんて…!




「…なんとなく分かるが…。もしかしなくても、雷が……?」

「…………、苦手……です。」




『そうか』と言うと、私に背を向けた。
手で顔を隠しているようだ。
……ん?
よく見ると、肩が震えている。
顔をのぞき込むと、明らかに笑っていた。





「わ、笑わないでよ!」

「いや、意外に可愛いところもあるんだな。」

「か?!……何言って…」

「正直に思ったことを言ったんだが。」

「えっ?…あ、…その………」




段々、顔が火照っていく。
可愛いだなんて、言われ慣れていないから、別に柳に言われたから赤くなったんじゃない…と密かに自分を納得させていた。
頭で納得しても、心が納得しないことなんてたくさんあるのに。
彼は私の真っ赤になった顔を見て、また笑っていた。




「あ!また笑った!」

「気にするな…。」




顔を見て笑われてるのに、気にするなっておかしくない!?
すると柳は一度咳ばらいをして、こちらを向いた。




「ほら。」




手を差し出す彼に、私は?を頭に付けた。




「また、いきなり抱き着かれても困るからな。手くらいなら繋いでやってもいいぞ。」




一瞬心臓の音が耳のそばで聞こえたのは…気のせいだろうか。
次は全身が熱くなった。




「だっ!大丈夫…です。」




耳まで真っ赤にして、大丈夫だなんて言っても説得力のカケラもない。
そんな事は分かってる。
でも、あと少しでも近付いたら、この心臓の音が聞こえてしまいそうで…。




「あ、雷。」

「ぎゃっ!」





柳が窓の外を指差した。
反射的に私はまた"何か"にしがみついた…。
やってしまった…。
……なんて学習能力がない私…。




「大丈夫、じゃなさそうだな。」

「ご──ごめんなさい…。」




早く、柳から離れないと…!
尋常じゃない心臓の早さに、自分がびっくりしている。
足に力を入れて、離れようと…した。




「……っ!柳?!」




ぎゅっと抱きしめられる形になっている。
逃げようにも、現役運動部に敵うはずもなく、そのままおさまる事になった。
心臓の音を聞かれないかが一番気になっていた。




「可能性はあるとみた。俺はこんな絶好な機会を逃すほど馬鹿じゃあないからな。」

「何の───」




機会、と聞こうとしたが自分の音がうるさい。
──だが、不規則に感じるこの音はなんだ…?
静かにしているとそればかりが聞こえてくる。
私に似ている…音──。
まさかっ…!
急いで顔を柳に向けると、彼は私の耳に顔を近付け、低く心地好い声で一言だけ言った。




「好きだ。」




もう、私の耳には雷鳴なんて、全く聞こえていなかった。







私の鼓動と、貴方の鼓動で。
(掻き消して──)






 
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