ちゃんと届くまで、あとどれくらいかかるんだろう。




【スロー・スローワールド/3】



サクラは我慢の限界だった。

「はぁ…」

暗部において彼らが使う秘密の地下部屋に、いまはサクラとナルトの二人だけが向かい合って座っている。
ナルトの溜め息はこれで何回目だろうか、とサクラは思い返してみた。たしかに、ここに来る前、外で待ち合わせていた時からナルトの背負う雰囲気にどこか違和感を感じではいたけれど。

「ちょっと、ナルト」
「はぁ〜」

ナルトの溜め息がこの部屋の空気をさらに重たくしている。ただでさえこの部屋は風も通らず空気が良くないというのに。

「はぁ…」
「っ、いいかげんにしなさいよナルト!」

痺れを切らしたサクラは机を殴りつけて立ち上がる。
ビリビリと部屋全体が揺れた。

「さっきから溜め息ばっかり!アンタが例の女に手紙書くの手伝ってくれって言うから来てあげたのに!」

サクラには医療班での研究という重大な仕事もあるのだが、ナルトの頼み、ましてや先日緊急召集してまで片付けたあの女に関することだから、断るという選択肢はもとより無かった。
しかし当の本人はまったくの上の空で、筆を握っているにもかかわらず一向に作業ははかどらないでいる。

「………ごめん、…」

コトリ、と筆を置いて椅子にうなだれた蒼い瞳にはいつもの力がなく、弱々しく光るばかりだ。
普段は無駄に元気なくせに、いったい何が、または誰がこの男をこんな風にさせたというのだろうか。
心当たりは…ないわけではないが。

「やめてよ。調子狂うから。…なにかあったの?」

サクラは椅子に座り直して柔らかい声音で問いかけた。
髪を耳にかける仕草。フワリ、と微かに香る花の香。
彼女の、時に姉のような優しさと包容力は、ついつい甘えたくなってしまうからいけない。

「……………サスケ…」
「サスケくん?」
「…いや、ちょっとさ」

やはり言うのはやめておこうと口を噤んだ。
余計な心配事を増やすこともないし、弱い部分をこれ以上見せたくはなかった。

「……ねぇ、ナルト?」

するとサクラは人好きのする笑みを浮かべたかと思うと、クイ、と指先で顎を掬った。

「アンタ、このあたしに隠し事する気?」
「サクラ…」

しかし、サクラの強気な態度は長くは続かなかった。
顎にあった手をそのままナルトの頬に滑らせ、つい、と抓る。
それは小さな子供に罰を与えるようにやさしい手つきだ。

「…あたしは今でも、ナルトとサスケくんとスリーマンセルになれたことは運命みたいに思ってるわ」

組み合わせ発表の日のことは今でもよく思い出す。
あの時、第7班に名前を呼ばれて良かった、と。

「だからなんでも相談してほしいのよ」

サクラが少し寂しげに笑んだのは一人で背負い込もうとするナルトの性格を知っているからだった。
他者を気遣ってのやさしさかもしれない。だがそれは時に、柔らかな拒絶とも成りうる。
多少なりともその自覚があったナルトは、抓られた頬をさすり、天井を仰ぎ見た。


ありがとうございます



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