002
□怖い夢を見た日
2ページ/8ページ
聞こえるのは凄まじい轟音と人々の悲痛な叫び声や泣き声、地響きのような獣の唸り声。
体の震えが止まらない。それに腹部が燃えるように熱い。言い知れぬ恐怖が俺を襲う。
怖い、痛い、嫌だ‥助けて‥そう叫びたいのだが声が出ない。
突然ふわっと、誰かの大きな手が俺の頭を撫でた。轟音が響くこんな状況でも撫でられた俺はなぜかとても安心した。しかしそれと同時にその大きな手が震えているこのに気付く。
ねぇ、アンタも怖いの?俺は自ずと震える大きな手に触れていた。手が重なったその時、意を決したかのように最後に俺を優しく撫でて大きな手が俺から離れた。
ーー嫌だ。俺を置いて行かないで‥怖い、痛い、嫌だよ‥ー
俺は強く強く目を閉じた。俺の頭の中で誰かの声がした。
「幸せで‥あってくれ‥‥」
最後に俺の名を呼んだ声はそれっきり聞こえなくなった。
聞こえるのは、人々の悲痛な叫び声と赤ん坊の泣き声。感じるのは声の主が残した温かさと腹部の痛みだけ。
この温かさを忘れたくはないと願ったが、腹部の燃えるような痛みが全てを飲み込んでいった。
ーーーーーーーーー
自分の唸り声ではっと目が覚めた。どうやらいつの間にか寝てしまっていた。
「‥まただってばよ‥クソッ」
またこの夢だってばよ。16年前この里を襲った尾獣とその尾獣から里を守った一人の英雄、そして尾獣の人柱力になった赤ん坊、俺の記憶が走馬灯のように頭によぎる。
開けっ放しだったらしい窓から心地いい風が吹いた。
俺は新鮮な空気を吸おうと大きく深呼吸した。