□酢コンブの好き嫌いって激しい。 沖神(沖目線)
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あいつに会った。

いつも会えば喧嘩する俺らは
いつも通り。

普通に睨み合って、普通に取っ組み合いになった。

旦那もいつもどおり
無視して去ってく。

眼鏡もいつも通り
とめるの諦めて帰る。

これがいつもの儀式

俺とあいつの唯一の交流会

でも今日は少し違った。

「オイどえす。…酢コンブ食べに行かないアルか?」

いきなり自分の好物を一緒に食べようと誘ってきた。
いつもなら、お互い殴り飽きたら解散、これが日常。

「何で俺がてめェなんかとそんなしょっぺェもん一緒に食べなきゃなんねんだィ」

当然断る。
こういうの誘ってきたときは大抵なんか隠し玉がある。

「最近銀ちゃん仕事来ないからって酢コンブ買ってくれないアル!!おかげで今食べてるのが最後の1個ネ…そゆわけだし、」

おごってよ。

…くると思った。
「絶対嫌だ」

もちろんこれも即答。

「何でアルか!?かっっわいい女の子がオネダリしてるアルよ!?」
「え、女なんてどこにいんの?」
「ンダトォォォォオ!?」

喧嘩勃発
…のはずだった。

「…もういいアル!」
とかいって、

そっぽ向いていじけだした。

おまけに何はなしかけても無視。
ちょっかいかけても無反応。
…拗ねられた(?)ままではどうにも後味が悪い。
つか、こんなこと初めてっツーか…何やってんのこいつ。

なんか
あんまりにも拗ねてる姿が
可愛いとか
思えてしまった俺は

「…甘いもん多い駄菓子屋なら…行ってやってもいい…ぜィ?」
とか、

らしくないこと言っちまった。

ぽろっと出てしまったそんな言葉。
絶対馬鹿にされるとか思ってたら、

「…マジで?いいの!?」
とか、

マジで聞き返された。
つか、切り替え早っ!

武士に二言はない。
言葉に出したからには行くっきゃない。

…めっちゃ見てるし。
そ、逸らせねェ…

「ま、まぁ一回ぐらいなら付き合ってやっても「甘いものいっぱいある駄菓子屋なら私いっぱい知ってるアルよ!こっちこっち!」

返事途中なんですけど…

なんか…今日は絶対おかしい。

こんなやつ相手に
こんなやつなのに
こんなの絶対おかしいのに

拗ねた仕草とか
切り替えの早い満面の笑顔とか
少しの距離の間手を引かれてるだけなのに、伝わるあったかさとか

…すごく、たまんないくらい愛しく感じちまうなんて。

絶対間違った感情なのに
あるはずのない感情なのに
それなのに

その間違いな感情に
俺は少しドキッとしてて
そんないつもと少し違うだけのあいつに翻弄されっぱなしで

そのせいか、駄菓子屋についたときには息がすっかり上がってた。

「何だヨだらしナイなぁ〜」
「…うっせーェ…おめぇがはしゃぎ過ぎなんでぃ」
なんていってる内に、あいつは既に酢コンブを四、五個胸に抱えている。

その幸せそうな顔見たら

また、らしくもなく

けなされた事やそれ全部俺におごらせる気かよという突っ込み通り越してどうでもよくなった。

「…ほらヨっ」
「あ?」
差し出された手には
俺の大好きなドッキリマンチョコが一個。

「お前このチョコ好きだったはずネ。この前よっちゃんから取り上げてまで食べてたし」

そんなどうでもいいこと
覚えてんのが
何でかどうしようもなく恥ずかしくて…嬉しくて
思わず
俺は口がほころんじまった。

何で今日は
こんなに違うのか

いつものお前じゃないのか
いつもの俺になれないのか

全くわからないけど


今だけ

このわけのわからない
けれど、気持ちいいこの感情に



流されていようと思う。





わかる日が来るその日まで。
 

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