捧げもの
□あったかい手
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今思えば確かに、最近暖かかったり寒かったり、気温が不安定だった。
にもかかわらず、あいつは飽きもせず縁側に座って庭を眺めてたんだ。
「おい、そろそろ中入れよ。風邪引くぞ」
半分寝ている様子のあいつに声を掛けて肩を揺すると、あいつはそのまま崩れるように廊下に倒れ込んだ。
あいつの肩に触れた手が、ジワリと熱い。
熱がある。
しかもすげぇ熱だ。
オレはとりあえずあいつを部屋まで運び込むと、慌てて母ちゃんを呼びに行った。
そして今に至る。
「ったく…こんなんなるまで庭見てることねーだろーに…」
人差し指と中指をマガナミの額に押し当てて、自分の額の熱と比べてみる。
「結構高ぇなぁ…」
眠っているマガナミの表情はやはりダルそうだ。
頬が上気し、呼吸も浅く荒い。
「どう?彼女の様子」
母ちゃんが洗面器に水を入れて持ってきた。
「寝てる。つーか、縁側で寝てた。調子悪いの自分で気づいてなかったんじゃねーか、こいつ」
「やっぱり疲れが出ちゃったのかしらね。慣れない土地で、慣れない家で」
母ちゃんはオレを一瞥してため息を吐く。
「こんな愛想のない男と一緒に生活してねぇ」
オレは顔をしかめた。
「悪いのはオレかよ…」
「誰もそうとは言ってないでしょ」
オレの文句を軽くあしらうと、母ちゃんは洗面器の水でタオルを絞り、マガナミの額に乗せた。
そういう風にしか聞こえねぇっての。
「お願い事はひとつ返事で頼まれてくれるし、よく働くし、素直ないい子だとは思ってたけど…やっぱり気を張ってたのね。
そうよね、知らない家だものね。
…風邪は心配だけど、逆によかったのかもしれないわ。
少し休ませてあげましょう」
母ちゃんは目を細めてマガナミの髪を撫でる。
そのせいかどうかはわからないが、マガナミは僅かに眉を緩めた。
「そうだな」
オレたちはそっとマガナミの部屋を後にした。