捧げもの
□夢桜 ―出会い―
1ページ/5ページ
時は大正のことです。
日本は、亜米利加、英吉利の組する連合国と共に、独逸、墺太利の組する同盟国と戦い、大戦争に勝利を収めていました。
しかし、その余韻に浸る間もなく、戦後の景気が陰りを見せる中、未曾有の震災が関東を襲ったのです。
東京は大損害を受けました。
多くの建物が壊れ、多くの命が失われました。
それでも人々は、絶望の淵からひたむきな一歩を踏み出し、復興を決意しました。
様々な方々のお考えの元、東京は、近代都市へとその姿を変えたのです。
震災の傷跡は、少しずつではありますが、癒えようとしていました。
私が生きた思春期は、喜びと痛みを共に味わった、希望と絶望の時代でした。
そんな時代の波に攫われることなく、私が穏やかな日々を送れていたのは、本当に幸運なことだったと思います。
毎日取り留めのない、温かな一日が流れてゆき、私はその生活に安らぎを感じていました。
この頃、女性は少しずつ社会進出を始めていましたが、それでもまだ大半は、親の言い付けに従い、慎ましやかに生きていました。
私もその例に漏れませんでしたが、別段不満を抱くこともなく、むしろそのような献身的な生き方を女性の美だと思っていたのです。
私には親の決めた許婚がいました。
父の友人のご子息で、小さな頃に一度お会いしただけですが、物腰柔らかな、それでいて芯のある方のようにお見受けしました。
私はこの方と夫婦となり、この方に尽くしてゆくのだと、子ども心に誇らしい気持ちになったことを覚えています。
しかし、私が思い描いていた慎ましくも穏やかな未来は、
あの出会いをきっかけに、急速にその色を失ったのです。