捧げもの

□おとぎの国の小さなお店
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半分開いた窓ガラスに反射して、太陽の光がキラキラと瞬く。

緩やかに吹く風が、窓に掛かったカーテンを優しく揺らした。

何かが起こりそうな予感に満ちた、爽やかな、朝。

サクラは、明るく照らされた木の葉の風景を浮き立った気持ちで眺めていた。



それもそのはず。

今日は、久々に与えられた貴重な休日なのだ。

平日に見る風景と休日に見る風景って、何でこんなに違うんだろう。

サクラは息を大きく吸い込んだ。





目の前の通りをよく見知った顔が通りかかった。

あ、と思っていると、当の本人と視線が合う。

「おっはよー、サクラ」

「いの。どうしたの?こんなところで」

「ちょっとこの先に用があってねー。…あ、そうだ、あんた今日これから任務?」

「ううん。今日は久々の休日よ」

「じゃあ、あんたも来なさいよ。いいところ連れてってあげる」

「いいところ?」

「そ。詳しくは道すがら話すから、早く支度して下りてきなよ」



まだ行くなんて言ってないのに。

心の中でそう呟きながらも、サクラは出掛ける準備をする。

「お母さーん、いのと出掛けてくるからー」

母親がいると思われる方向に向かって叫ぶと、返答を待たずに家を飛び出した。



「おっそーい」

「これでも急いだわよ」

お互い、決めごとのように憎まれ口を叩いてみるものの、大して怒っている風でもない。

「じゃ、いくわよ」

いのの言葉で二人はのんびりと歩きだした。





時刻は朝の十時を回っている。

道端で出会ったらしい人々が、和やかな雰囲気で立ち話をし、

付近の住民は、庭先で洗濯をしたり、通りの掃除をしたりしていた。

その脇を邪魔だとばかりに子どもたちがバタバタ走り回る。

ゴミを散らして大声で注意されたのを気に留める様子もなく、その姿はあっという間に小さくなっていった。





「で、どこに行くのよ?」

サクラがいのに問い掛ける。いのは意味ありげに笑みを浮かべた。

「木の葉の谷を一つ越えた先にあるっていうお店よ」

「お店ぇ?そんなへんぴなところにぃ?」

「それがあるらしいのよ。なんでも、欲しいものが全て置いてあるんだって」

サクラは眉をひそめた。

「ウソくさぁ…」

サクラの反応に、いのは苦笑する。

「まーね。でもどんなお店か気になるじゃない」

小さく息をついて、サクラは頷いた。

「そうね。暇つぶしくらいにはなるかもね」

「そーこなくっちゃ」

いのは満足そうに頷き返すのだった。
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