捧げもの

□おとぎの国の小さなお店
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険しい谷を越えて、二人は深い森の中に入った。

木々が空を覆い隠し、辺りはどんより薄暗い。

日の光の当たらない地面は、じっとりと湿気を含んでいた。

「いの…ホントにこんなところにお店なんてあるの…?」

サクラが気味悪そうにいのに訊ねる。

いのも同様の表情でサクラを振り返った。

「それを言わないでよ。あたしも自信無くなってきた…」

二人の乾いた笑いを森はいとも簡単に吸収する。

どこかで鳴いている鳥の声だけがやけに大きく響いた。





その時、道の先に真っ白な小動物が現れた。サクラがそれに気付き、いのの肩を揺する。

「見て、ウサギ!」

長い耳をぴょこぴょこさせる愛らしい動きに小さく歓声を上げた。

「あ、ホントだー」

いのも嬉しそうに応じる。

不気味さが先行していたこの森に、救いの手が差し伸べられたような気がして、二人はホッと息をついた。

すると、そのウサギがピョンと森の奥へ進んだ。

「あ」

「もう行っちゃうの?」

二人は名残惜しそうに呼び掛ける。

ウサギは更に奥へと足を進めた。

そして、こちらを振り返ると、耳をぴょこぴょこと揺らし、鼻をヒクヒクさせる。

もう一歩進んでは振り返り、もう一歩進んでは鼻を動かした。

その仕草は、ウサギが微笑んでいるようにも見えた。

二人は揃って顔を見合わせる。

「もしかして」

「ついてこいってこと?」

そんなバカな、と思いつつも、二人はウサギを追って歩きだした。





意外にすばしっこいウサギを夢中で追う。

ウサギはどんどんと森の奥へと分け入っていった。

そろそろ疲れてきた頃にようやくウサギの足が止まる。

二人はつられて立ち止まり、我に返ったように視線を上げた。

そこには、年季の入った木造の一軒家が、静かに腰を据えていた。

ウサギは、心なしか嬉々とした様子で、その家の中に入っていった。

「え?今どうやってドア開けたの?」

二人はオドオドと家の様子をうかがう。

「…どうする?」

しばらくその場でまごまごしていたが、結局は好奇心が勝り、ソロソロと一軒家に近づいていった。



「あ、小さな出入口がある。あの子用かな?」

ドアの右隅に、蝶番でとめられた板が取り付けられており、押すとパタパタ揺れた。

ウサギはここを通って家の中に入ったのだろう。

「…行くよ」

いのの言葉にサクラが無言で頷く。

軽くノックをしてから、いのはおもむろにドアを開けた。
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