捧げもの

□暖かな昼下がりには将棋を
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爽やかな風がそよぎ、麗らかな日の光が差し込む、ある暖かな昼下がり。

奈良家の縁側には、二人の男が胡坐をかいて座っていた。

ゆっくりと、断続的に響く軽い打音は、周囲の時の流れをたゆませ、緩やかにする。

外塀の上では、陽だまりを受けて、猫が気持ちよさそうに丸まっていた。





「ん…あ、ちょっと待て、そこはだな…」

大柄な男が、眉を情けなく垂れ下げて頭を掻いた。

少年が盤の上に差し出した駒に苦い視線を向ける。

「待ったなしだぜ?アスマ」

男をアスマと呼んだ少年は、にやりと愉快げに笑みを浮かべた。

「かわいくねーぞ、シカマル。お前には年長者を立てようという気持ちがねぇのか」

「へー、手ェ抜いてほしいんスか?別にいいけど」

「えぇい、うるせぇ。最近色々あって、ちょっと調子が悪いんだよ」

アスマはやけ気味に駒を置いた。

「いいわけっスか?」

シカマルと呼ばれた少年は、からかうように鼻を鳴らす。

アスマは、小さく唸ってもう一度、頭を掻いた。

「お前にはまだわからんだろうが、大人には色々…あんだよ」

シカマルは目をしばたたかせた。

「…なんかあったんスか?」

シカマルの問いに、アスマは答えない。

むっつりと黙りこくって、ぷいと横を向いてしまった。



しばらくして、アスマはポツリとシカマルに呟いた。

「…お前、好きなやつとか、いねーのか?」

シカマルは、アスマの突然の振りに、一瞬ポカンとして、目を見張った。

アスマのやつ、どーしたんだ?

「別にいねーよ。女なんて面倒なだけじゃねーか」

頬を掻いて眉をしかめる。

「今日だって、朝一で母ちゃんに怒鳴られて」

シカマルは今朝の様子をのろのろと語る。

「買い物押し付けられたと思ったら、出掛けた先でいのとサクラに会ってよぉ」

通りかかった店の前で、ひとつのアクセサリーを取り合っているらしい、いのとサクラを目撃し、

大慌てできびすを返したところを運悪く見つかってしまった。

鬼のように目を吊り上げて、どちらのほうが似合っているかと迫ってくる二人の女に、シカマルは辟易としたのだった。
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