捧げもの

□暖かな昼下がりには将棋を
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盛大にため息を付くシカマルを横目に、アスマは苦笑を漏らす。

その現場が大いに想像できた。

「ったく、女ってのは、高圧的で、なんでも自分の思い通りになると思ってやがる」

げんなりした表情を浮かべ、だるそうに頬杖を付いた。





上空から二羽、小鳥が庭の木に舞い降りてきた。

小さく木の葉が揺れる。

じゃれ合う様に鳴く小鳥たちに、丸まっていた猫がのっそりと首だけをもたげる。

が、すぐに興味を失ったのか、また首を身体の中にうずめると、規則正しい呼吸を始めた。

縁側では、相変わらず将棋を指す音がまったりと響く。





「んで」

それきり黙ってしまったアスマに痺れを切らし、シカマルが口を開いた。

「紅先生がどうかしたんスか」

ブッと吹き出して、アスマはあからさまに動揺を見せた。

要はこの話をしたかったんだな、とシカマルは内心ひとりごちる。

もたくさしているアスマを辛抱強く待った。

「別に紅がどうのって話じゃねぇよ」

言い訳のようにそう前置きすると、アスマは、先日あったという話を始めた。





アスマは、アンコと紅の買い物に、荷物持ちとして付き合わされていた。

どこからわいてくるのかと思えるほどのエネルギーで次々に洋服店をハシゴしていくアンコと、

それに従いながらマイペースに服を物色する紅。

もう、何軒目かを数えるのもバカバカしくなった頃、なにやら二人が押し問答をしている声が聞こえてきた。

「いいわよ、それはさすがにちょっと…」

「何言ってんの。すごく似合うわよ。そうやって自分で自分の限界決めるのやめなさいよ」

「そりゃ、あんたは若いし、いいかもしれないけど…」

「若いって、たったの三つでしょ。だぁー!もう!そうだ、アスマに聞いてみましょ。アスマァ」

「ちょ、ちょっとアンコ」

バタバタとアンコがこちらに走ってきた。

手には二種類の服を抱えている。

一つは、ポップで若々しい服、もう一つは、シックで落ち着いた服だ。

二つをアスマの前に掲げて、アンコが尋ねた。

紅は恥ずかしそうに顔を伏せ、それでもチラチラとこちらを気にしている。

「紅がこの二つで迷ってんのよ。アスマはどっちが似合うと思う?」

オレかよ、と思いつつ、アスマは二つの服を見比べた。

普段紅が着ている服、紅の性格、雰囲気。

どちらが紅向きかは、尋ねるまでもなく歴然としているように思えた。

大して迷いもせず、シックな服を指差す。

「そりゃ、こっちだろ」

途端、アンコの顔が歪んだ。

明らかに軽蔑の表情を浮かべている。

驚いて紅に視線を移すと、紅もどこか不満げな顔をしていた。

結局どちらも購入することなく店を出て、二人はその後ほとんど口をきいてくれなかった。
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