短編

□華弥と花火の日
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「このクソガキィ!俺の水羊羹食いやがったな!」

「食べ物がそれしかなかったからでしょうが!食べられたくなかったら、食費寄越せよ、クソジジィ!」

チリンと、廊下に下がった風鈴が鳴る、蒸し暑い夏の日。
何処にでもある家から、父親と娘の言い争う声が、外の通りにまで響く。
その家の前を通った近所の人達も、偶々散歩で前を通った同じ地区の人も「またやっているのか。」と思うだけで、不安げな顔はしない。
なんせ、この地区は血気盛んな奴ばかり。
言い争いなんて、日常茶飯事。
そして、娘がこの後取る行動も、日常茶飯事。



昔ながらの日本住宅が並ぶ、とある町のとある地区。
娘宅の向かいに佇む、とある一軒の家。
この地区の長の家であり、娘がよくお邪魔する家だ。
今日も、娘はこの家にお邪魔し、縁側でのんびりと茶菓子を食べている。
その様子を、この家に住む空波空(ソラ)は、呆れた顔をして見ていた。
娘と同じ14歳で、毎回のように相手をしてあげている。
娘から言わせれば、「私が相手をしてあげている。」だ。

「また、お父さんと喧嘩したのか、華弥(ハナビ)。外にまで、怒鳴り声が聞こえたぞ。」

「全く、近所迷惑だ。」と、空は続ける。
華弥と呼ばれた娘は、茶菓子を頬張りながら、口を開いた。
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