短編

□小鬼は優しいママが欲しい
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問題は点数ではない

 ソファーとローテーブルの間に寝そべって、子どもはけらけらと笑いながら、コント番組を見ている。実に楽しげだ。テスト前に熱を出したとは思えないほど元気である。
「英語が九十六点、数学が八十四点、生物が七十六点、現社が八十二点、国語表現が七十点……」
 ぱらぱらと、返却された答案用紙の数字を眺める。
 どの教科も平均点よりは取れているようだが、五教科と呼ばれる中で国語がやや低い。それでも平均よりは上なので、問題ないといえば問題ないが、答案用紙を見ていて気づいたことがある。
 ソファーにどかりと座り、床に敷いた長座布団の上で寝そべる子どもを見下ろした。
「おい」
「なぁーに?」
「今見てるんだから邪魔しないで」という視線が、子どもから飛んでくる。
 その視線は見なかったことにして、ひらひらと答案用紙をちらつかせた。
「国語の方、お前サボっただろう?」
「さぼってないよ、失礼な」
「長文から抜き出す問題とか、解答欄書いた様子がないじゃないか」
「わからなかったから無視したんだよ」
「……英語はわかったのにか?」
「ナンノコトダロウ」といった様子で、獣の視線がテレビへと戻る。
 この子ども、やっぱりわかってて書かなかったな。英語の抜き出し問題は、しっかりと長文を読んで和訳もして解答してるのに、国語で同じような問題が出来なかったとは考えにくい。
「おい……」
「次はちゃんとやるよー。やればいいんでショー」
「パパの望み通り、きっちり百点取ってきますよー」と、ごろりと寝返りをうって、よいしょと上半身を持ち上げる。
「そのかわり、ちゃんとご褒美用意しておいて」
「……何がいい?」
「リゾートの年パス更新」
「高いわ」
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