短編

□小鬼は優しいママが欲しい
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熱を出すとテンションが高くなるものです

 高校一年生。最後の期末考査を控えた夜。
 パパに突然「熱を測れ」と言われた。
 その手には体温計があり、ぶらぶらと目の前で揺らされる。
「なに急に? 怖いんですけど」
 ついでに言うなら、勉強の邪魔なんですけど。
 こっちは明日のテストに向けて、数学の授業で使っているワークを必死に進めている最中だ。決して、提出物のワークが終わっていなかったというわけではない。ワークやるの忘れてたとか、そういうことではない。決してそうではない。
「ワークチョーウダルーイ」と思ってたところでの、「熱測れ」である。俺の機嫌は急降下だ。スプラッシュマウンテン並みの降下だ。
 むすーっとしたまま体温計を睨んでいると、「いいから測れ」と押しつけられる。
「もう! チョコクランチだけで済むと思ったら大間違いだから」
 俺が吐いた捨て台詞みたいな言葉に「なにを言ってるんだ」と呆れた言葉が返ってくる。
 熱なんかない。ちょっと身体がぽかぽかするけど、これは厚手のトレーナーを着ているせいだし、ちょっと背筋が冷えるなっていうのも、今居る場所がリビングで広いせいだ。パパは俺が来るまで一人暮らしだったのに、3LDKの家に住んでいるのだ。広すぎる。家賃幾らだよ。ここ、新浦安だぞ。オリエンタルのお膝元だぞ。
 仕方なく、体温計を脇の下に差し込み、落ちないようにしっかりと挟む。
 それから数分後。
 体温計に表示された数字は、三十七度であった。
「あっれぇー?」
「『あっれぇー?』じゃねえわ! 寝ろ!」
「やだよ! 俺の夜はこれからだもん!」
「わけのわからん事を言うな!」
 抵抗むなしく、俺はパパに引き摺られるようにして運ばれた後、寝室のベッドへと投げ込まれた。
 パパの力強すぎる。(本当に三十代なの?)
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